これまでの研究において、脂質二分子膜からなるリポソームに電荷微粒子を内包させ、このリポソームに電圧を印加することにより、微粒子の電気泳動現象を利用した脂質ナノチューブの作製が可能であることを見いだしてきた。また、ゲル濃度、印加電圧、微粒子の濃度や粒径を変化させることで、作製されるチューブの本数や長さをある程度制御できることも明らかにしてきた。当該年度においては、フリーズフラクチャーレプリカ法による透過型電子顕微鏡観察結果からナノチューブの直径が50~150 nmであることを示した。また、光褪色後蛍光回復測定により、蛍光消光後にナノチューブ由来の蛍光の回復が見られたことから、このナノチューブが確かに流動性のある脂質二分子膜によって形成されていることを明らかにした。さらに、Hela細胞と荷電微微粒子を内包したリポソームを同一基板上に固定化して電圧を印可することで、リポソームから伸長した脂質ナノチューブによる細胞間の連結を試みた。Hela細胞を37度でインキュベートして基板に固定化した後、アビジン-ビオチン相互作用を用いてこの基板にさらにジャイアントリポソームを固定化した。このように細胞とジャイアントリポソームが固定化された基板に対して、電圧を印加すると、リポソームから伸長したナノチューブがHeLa細胞に接続することが確認された。この結果は、細胞のviabilityや内水相の物質輸送の有無など、検討すべき点はあるが、脂質ナノチューブにより天然の細胞を連結できる手法を予備的に確立した点で興味深い。
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