本研究の目的は、「リアルなバイオ環境にある刺激」あるいは「バイオ環境で使えるマイルドな刺激」に応答するアダプティブな完全人工自己組織化ナノ材料の開発である。得られたナノ材料は、薬物放出マトリックスや細胞培養機材等のバイオ医療材料としての応用が期待できる。 平成24年度は、開裂反応により自己組織性を獲得する自己組織性分子の開発を進めた。具体的には、Diels-Alder反応によって、糖脂質と水溶性デンドロンを連結した双頭型両親媒性分子を合成した。この分子は室温では水中でナノシート構造を形成した。さらに、温度を上昇させると、設計どおり糖脂質と水溶性デンドロンに開裂した。その結果、生成した糖脂質は自己集合し、ヘリカルファイバーネットワークを形成し、ヒドロゲルになることを明らかにした。また、原子間力顕微鏡および透過型電子線顕微鏡、小角X線散乱実験から明確にそのナノ構造の変換を捉えた。 通常のヒドロゲルは温度を低下させることによって得られる。本研究のように、温度を上昇させることでヒドロゲルになるシステムは珍しく、薬物放出マトリックスや細胞培養機材等のバイオ医療材料として新たな応用が期待できる。リアルなバイオ環境にある刺激、すなわち体温程度の温度上昇に対応する分子システムとするにはさらなる改良が必要であるが、本成果は、本研究課題で取り組んでいる「化学反応部位を自己組織性分子に組み込むという申請者独自の分子設計指針」が有効であるということを明示している。
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