研究概要 |
本研究課題の目的は,分子ひとつひとつを可視化し、その時間的構造変化や化学変化を原子レベルで解析する研究手法を提案することである.特に結晶構造解析のようにたくさんの分子を必要とせず,また同時にいくつもの化学反応が起こった場合でも,それぞれの反応をひとつずつ解析できる分析手法の開発を行うことが狙いである.これまでに達成した個別分子の運動および化学反応の測定をさらに発展させ、より信頼度の高い測定と,高速CCDカメラを用いた測定により現行の10倍以上の速い動きに対応したミリ秒での分子の動きや化学反応の解析を目指す. 初年度は,高速画像撮影およびその解析のために必要あるいは有効な要素技術の開発に着手し,研究はおおむね順調に進んでいる.以下の4つのテーマを柱に研究を進めた.1.高速CCDカメラの導入および画像解析技術の確立,2.原子ラベリング法の開発,3.温度やエネルギーなどの外部環境変化に対する分子の動きの解析,4.超薄膜,真空への試料固定による超高感度測定の検討を行った. 年度初めからテーマ1に関しては,高速CCDカメラの選定および仕様の詳細を詰めていった.国内メーカー,海外メーカーなどの高速CCDカメラを取り扱う会社に連絡をとり,高速撮影の可否,感度,電子顕微鏡に取り付けの可否,インターフェースの制御,画像取得ソフトおよび解析ソフトなどについて詳細に比較検討を行った.公募入札の結果,日本電子社が取り扱うプログレッシブインターラインCCDカメラとコントローラー,制御ソフトを納入した.高速撮影に対応した数百fpsまでの画像取得をする画像キャプチャソフト,キャプチャに必要なコーデック,aviファイルからjpgファイル変換をするソフトの整備,Gatan社Digital Microscopy Suiteへの画像取り込みをするためのscript作成,位置補正をするためのscript作成および同等のソフト入手などを行った.テーマ1と同時に2-4の実験テーマも進行させたが,それぞれのテーマは当初の予定通り順調に進んでいる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テーマ1に関して,高速CCDの実際の購入は,地震や停電などの影響で企業の適応能力が追いつかず,当初の予定から大幅に遅れて年度末までずれ込んだ.しかし,試料作製法の検討,画像解析,画像処理のための周辺機器の整備などを効率的に行い,納入と同時に高速CCDによる撮影を開始することができた.動画解析のための画像処理を行うまでの一連の作業ができるよう環境を整備した.テーマ2に関しては,いくつかの分子で元素の確認に成功した(未発表).テーマ3に対して,溶液の急速凍結と低温電子顕微鏡観察を行い,分子集合体の形成過程をリアルタイムで観察することに成功した(未発表)。テーマ4に関しては,企業の協力を得て,カーボンナノホーン試料を無償で提供していただいた.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に蓄積されたデータを積極的に発表していく予定である.高速撮影のための環境-整備(テーマ1)はほぼ完了したので,今後はテーマ2および3を精力的に進めていく予定である.実験に用いる電子のエネルギーを変えるなど,外的環境を制御することにより,分子の動きや反応性を調節し,高速測定と組み合わせて最適な実験条件を作り上げる方法を検討していく.テーマ4に関して,ナノカーボン材料の表面に化学的あるいは物理的に分子を固定し,バックグランドノイズを下げることで,高感度測定が実現可能であるかを検討していく.
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