研究課題/領域番号 |
23681029
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柴田 憲治 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (00436578)
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キーワード | 量子ドット / 電子デバイス / 光デバイス |
研究概要 |
本年度は、「位置・形状制御InAs量子ドット(QD)の形成技術の高度化」を中心に研究を推進した。同時に、「形成したQDの電気的・光学的特性の評価」も並行しておこない、その結果をQDの形成へとフィードバックすることで、QDの形成手法の最適化を行った。以下に、各項目についての成果を記述する。 [位置・形状を制御したInAsQDの形成技術の高度化] まず初めに、基板加工に用いる原子間力顕微鏡(AFM)にClosed loop制御機構を導入し、QDの形成位置の不確定さを、これまでの50nmから20nm以下に抑えた。その上で、様々なサイズの位置制御InAs QDを再現性良く形成し、単一QDレベルでの電気伝導特性、光学特性を評価することに成功した。これと並行して、電子線(EB)リソグラフィーを用いた位置・形状制御QDの作製手法の開拓も推進した。これまでは、EBレジストの完全な除去が困難であり、残留レジストの存在が、その後のQDの結晶成長の大きな障害になっていた。本研究でGaAs基板上のナノサイズのパターンに影響を与えずに、EBレジストを完全に除去する手法を開発した結果、より簡便かつ迅速、大面積に位置・形状制御QDを形成することが可能となった。 [位置・形状制御したQDの電気伝導・光学特性の評価] 位置・形状制御された単一のQDの特性評価を、電気的・光学的双方の観点から行った。電気伝導評価では、InAs QD素子が明瞭な殻構造を示す単一電子トランジスタとして動作することを明らかにした。更に、QDのサイズや形状の精密な制御によって、伝導特性の制御が可能であることを明らかにした。また、光学特性に関しては、マイクロフォトルミネッセンス法による評価をおこなった。その結果、発光特性がQDの成長温度に強く依存し、QDを高温成長することによって、良い発光特性が得られることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究目標は、「位置・形状を制御したInAs量子ドット構造の形成技術の高度化と、その電気伝導・光学特性の評価、および、結晶成長へのフィードバック」であった。量子ドットの形成手法に関しては、AFMを用いた手法の高度化と並行して、EBリソグラフィーのみで位置制御をおこなう手法の開拓にも成功し、より簡易な大量、大面積生産を可能とした。また、電気的評価では、位置制御ドットを用いたトランジスタが単一電子トランジスタとして動作し、その特性が量子ドットのサイズで制御できることを確認した。更に、位置制御ドットからの発光特性が、成長温度と共に大きく変化する様子も観測された。これらの結果を結晶成長へとフィードバックし、結晶成長の最適化に成功した。以上の結果から、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で、良好な光学特性や伝導特性を示すサイズ・位置・形状が精密に制御されたInAs量子ナノ構造を作製するための手法が明らかになった。この技術は、単一光子と単一電子スピンの間の量子メディア変換や、量子計算、量子通信などの要素技術全ての基盤となり得る技術であり、その応用範囲は非常に広い。今後、この技術を用いて高機能電子・光デバイスを、高い歩留まりで実現する研究を遂行する。具体的には、電子デバイスへの応用に関しては、ナノギャップを有する金属電極を用いて単一量子ドットに電気的にアクセスすることで、単一量子ドット構造における単一の電荷・スピンの自由度を電気的に制御できる素子の開発をおこなう。特に、自己組織化法では形成が困難な2重量子ドット構造や、量子リング構造における電荷・スピン制御に取り組む。また、光デバイスへの応用に関しては、単一光子発生器の活性層への応用の他、量子ドットにおける電子のサブバンド間遷移を用いたテラヘルツ電磁波の検出や、テラヘルツ帯でのキャリアダイナミクスに関する研究へと展開する。
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