研究課題/領域番号 |
23681031
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
谷口 正輝 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (40362628)
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キーワード | ゲーティングナノポア / ナノポア / 単分子 / 流動制御 / トンネル電流 / 生体分子 / 1分子科学 / 1分子技術 |
研究概要 |
ゲート電圧、電気泳動、電気浸透流、および水溶液のイオン濃度を取り込んだマルチフィジックスモデルを用いて、SiO_2をゲート絶縁膜とするゲーティングナノポア内の1本のDNA分子の流動ダイナミクスシュミレーションを行った。正のゲート電圧を印加する場合、SiO_2表面に負電荷イオンが蓄積されるため、電気浸透流が電気泳動と同じ方向に流れ、1分子流動速度が速くなることが分かった。一方、負のゲート電圧を印加すると、正電荷が蓄積されるため、電気浸透流が電気泳動とは逆向きに流れるため、1分子流動速度が遅くなり、ゲート電圧の制御により、1分子流動速度を制御できることを理論的に明らかにした。また、1分子流動速度は、水溶液のイオン濃度に大きく依存し、高いイオン濃度ほどゲート電圧に対する速度変化が小さいことが明らかとなった。特に、ナノポア表面に本質的に存在する電荷量と電荷種が、ゲート電圧に対する流動速度を決定するため、ゲート絶縁膜材料の選択と表面処理が、現実のデバイスでは重要なパラメータになることを見出した。 微細加工技術を用いて、シリコン基板に平行にゲーティングナノポアがある横型ゲーティングナノポアを開発し、ゲート電圧に対する1本のDNA分子の流動時間依存性を調べた。ゲート電圧を印加しないときの1本のDNA分子の流動時間は、約500マイクロ秒であった。一方、0.7Vのゲート電圧印加時には、約9ミリ秒と約200ミリ秒の2つの流動時間が得られた。200ミリ秒の遅い流動時間は、DNAと電極の静電相互作用により実現され、9ミリ秒の流動時間は電気浸透流により実現されたと考えられる。目標時間であった1ミリ秒より遅い流動時間が、ゲート電圧の変調により実現されることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲーティングナノポア内における1分子流動ダイナミクスを、電気泳動と電気浸透流を含めたマルチフィジックスモデルでシュミレーションし、1分子流動速度のゲート電圧依存性・イオン濃度依存性を明らかにすることで、ゲーティングナノポアデバイスの動作原理を理論的に示すことができた。さらに、微細加工技術により、ゲーティングナノポアデバイスを開発し、1ms以上の遅い1分子通過時間をゲート電圧の変調で実現した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、1分子流動速度のゲート電圧依存性・イオン濃度依存性の詳細を実験的・理論的に検討し、1分子流動ダイナミクスの基礎科学を構築するとともに、1分子の流動速度制御技術を開発する。特に、流動速度は、ナノ電極間で得られる電流シグナルの形状・振幅・持続時間に大きく影響すると予測されるため、流動速度と電流シグナルの依存性を明らかにし、高速・高精度で流動速度を制御できる計測条件の最適化を行う。また、基板に平行なゲーティングナノポアデバイスとともに、基板に垂直なゲーティングナノポアデバイスの開発を行い、1分子流動制御に適したナノ構造の最適化を行う。
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