ナノポアへのDNAの捕捉頻度を向上させるため、直径20nmのサラウンディングゲートナノポア(SGNP)構造とマイクロ・ナノ流路構造を集積させたデバイス構造を作製し、DNAの流動速度とともに捕捉頻度の計測を行った。ナノポア構造の前段にマイクロ・ナノ流路を組み込み、DNAをナノポアに誘導することで、捕捉率が向上した。ゲート電圧を印加することで、DNAのポア通過速度は広い分布を持ち、最大でゲート電圧無印加時の10%程度まで減速することに成功した。流体力学と電磁気学を組み合わせたマルチフィジックスモデルを用いて流動現象を解析した結果、電気泳動電圧が、ナノポアと流路に分圧され、DNAがナノポアに高い頻度で導入されると同時に、実効的な電気泳動電圧が小さくなり、遅い通過速度が実現されることが示唆された。この分圧効果により、100mVの電気泳動電圧印加時でも、DNAを捕捉することが可能となり、ポア通過時間のヒストグラム解析から、通過速度は54塩基/msであり、1塩基/msまで減速されたDNAも検出された。また、1分子の流動速度のイオン濃度依存性をマルチフィジックスモデルにより解析した。SGNPデバイスでは、シリコン基板を挟む上下の液体チャンバー内のイオン濃度は同じであると想定しているが、実験系では、有限なイオン濃度勾配が予測される。そこで、SGNPデバイスにおいて、イオン濃度勾配がある場合のシュミレーションを行ったところ、イオン濃度勾配は、DNA捕捉確率を向上させるが、濃度勾配で生じる電気浸透流の影響により、DNAの流動速度を急激に遅くすることが示唆された。これまでの研究から、ナノポア内の1分子流動速度は、ナノポア壁面近傍を流れる電気浸透流に大きく支配され、電気浸透流の大きさは、ナノポアの直径、ナノポア壁面の電荷量、イオン濃度、温度、およびゲート電圧をパラメータすることが明らかとなった。
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