研究概要 |
ネットワーク上の協力行動は,人間の基礎的な社会行動の一つである.協力をされたら,他のエージェントに協力するという間接互恵性については,行動実験では人間でも,人間以外の動物でもその存在が報告されているものの,理論的な説明がなされていない.1980年代に社会ネットワークでそのような協力が起こる理論的な可能性を示した研究が存在するが,ネットワーク構造がサイクルという特殊なものに限られていた.したがって,スケールフリー性などを持つような一般的な社会ネットワークにおける間接互恵性の可能性は明らかになっていなかった.このような協力行動の可能性を判定することは,さらに複雑に社会ネットワークそのものが時間的に変化するような場合の,ネットワークの社会現象の理解や操作に対して,方法論の指針を与えるものであると期待される.本研究では.一般な社会ネットワークにおいて,間接互恵性の可能性を解析した. 協力行動の流れを,ネットワーク上を流れるランダム・ウォークの確率フローとして表現することによって,与えられたネットワークの隣接行列を入力として,間接互恵の起こる可能性を定量化することに成功した.特に,協力が伝搬する度合いが1であれは間接互恵は必ず起こり,0であれば必ず起こらないことは自明なのだが,その度合についてしきい値があり,しきい値以上では間接互恵が起こること,そのしきい値を与えられたネットワークに対して一意に決定する計算手法を考案した.この計算手法を,種々のネットワーク構造に対して適用した結果.スケールフリー・ネットワークやその他のネットワークにおいて,間接互恵性は非常に起こりにくい,特にネットワークサイズが適切な制限のもとで大きくなると,大きいネットワークになるほど協力行動が起こりにくいことがわかった.本結果は,人間の協力行動は,他のメカニズムによって維持されていることを示唆する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ネットワーク上のダイナミクスについては,論文を1つ発表した.そして,テンポラル・ネットワークのデータ解析については,かねてから進めていたが,各イベントの重要性についての仕事がまとまっている段階である.したがって,次年度以降,研究成果(論文)の意味でも十分な進展が期待される.また,異なる実データを解析したり,テンポラルネットワークの解析手法を開発することについても,順当に研究が進捗している.
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今後の研究の推進方策 |
貴重な実データを獲得する速度が研究の律速となりうることがわかってきたので,データを提供してくれる共同研究者などに早めにアクセスし,時間をかけて実データを供用させてもらうようにする.それ以外の意味では研究を遂行する上での問題点は特に見当たらない.本分野は海外,特に欧州で研究が先行している分野なので,すでにいる共同研究者や,共同研究者ではないが密な関係にある研究者との連絡を密にし,また,ネットワークの国際会議に年に2回程度参加,研究発表するようにし,研究情報のこまめなアップデートを行うのが有効な対策であると考えられる.
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