研究課題/領域番号 |
23681037
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
重 尚一 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60344264)
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キーワード | 地球観測 / リモートセンシング / 防災 / 気象学 |
研究概要 |
本研究は、洪水予測等に重要な地形性豪雨を、複数機の衛星に搭載されているマイクロ波放射計から精度良く推定することを目指すことを目的にしている。気象データ/地形データによって算出された上昇流と水蒸気フラックス収束量の条件によって地形性豪雨発生域を判定し、通常の陸上降雨推定に用いられている背の高い降水プロファイルの代わりに背の低い降水プロファイルを用いることによって、マイクロ波放射計降水推定アルゴリズムの地形性豪雨の過小評価を解消する。今年度は、紀伊半島における地形性降雨と2009年8月に台湾に甚大な被害をもたらした台風Morakotに伴う地形性豪雨の事例を対象に研究を進めた。 紀伊半島については、地形性豪雨発生域判定アルゴリズムを熱帯降雨観測衛星(TRMM)搭載マイクロ波放射計(TMI)に適用し、夏季3ヶ月平均の降雨量を算出したところ、レーダアメダスでみられる尾鷲付近の降雨量極値を算出することに成功した。一方、地形性豪雨が発生せず、レーダアメダスとの差が小さい冬季3ヶ月については、水蒸気フラックス収束量の条件が機能し、推定値が変化しないことが分かった。 台風Morakotの事例については、TRMM衛星搭載の降雨レーダPRによって、紀伊半島同様に比較的背の低い降水によって豪雨がもたらせていることがわかった。また、水平格子間隔約1kmの地形データを様々な空間スケールで平滑化し、気象データと組み合わせて地形性上昇流を求めたところ、約50kmに平滑化した場合が、PRの降雨量と相関が最も高いことが分かった。約50kmに平滑化した地形データによって算出した地形性上昇流域で背の低い降水プロファイルを適用し、TMIから降雨量を算出したところ、PRと同様の降雨量分布が得られた。 この他、本研究の基礎データとなる、TRMM標準プロダクトデータ改訂版が新たに公開されたため、その収集・整備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基礎データとなるTRMM標準プロダクトデータ改訂版の公開が遅れ、その入手が予定より遅れたが、TRMM標準プロダクトデータ旧版のデータで研究を進めることにより、紀伊半島のみならず、台湾における台風Morakotの事例についても、地形データ/気象データによって判定された地形性豪雨発生域での背の低い降水プロファイルの適用が、マイクロ波放射計の地形性降雨量推定の改良に有効であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた紀伊半島の地形性降雨の改良結果について論文として投稿を行う。台風Morakotの事例については、地形性豪雨発生域判定アルゴリズムをTMIだけでなく、現在運用中の全てのマイクロ波放射計に適用する。さらに、赤外放射計データを用いて高時間高空間分解能降雨マップを作成し、台風Morakotが台湾を通過している期間で積算して、台湾の地上雨量計ネットワークから得られた雨量水平分布と比較検証を行う。得られた成果を投稿論文にまとめる。 また、開発した地形性豪雨発生域判定アルゴリズムを準リアルタイムで降雨データを配信するシステムに導入するため、アルゴリズムをグローバルかつ準リアルタイムで適用できるように入力データならびにコードの修正を行う。
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