研究概要 |
陸上では、マイクロ波放射計によって観測された高周波帯(30GHz以上)の輝度温度を、気温0℃高度より上空の固体降水(雪・霰など)の鉛直積算量と対応するとし、地上の降雨量を推定している。その精度は、降水雲に関する様々な仮定(降水物理モデル)に大きく依存する。通常の豪雨は、背の高い降水雲から多量の固体降水粒子が雨に融けて地上に達する冷たい雨の過程で生じる。一方、地形成上昇流によって強化された地形性豪雨は、固体降水粒子をほとんど経ることなく背が低い降水雲から暖かい雨の過程でもたらされることがあり、マイクロ波放射計降雨量推定アルゴリズムが地形性豪雨を捉えることができない要因となっていた。 本研究は、気象データから求めた地形性上昇流域で背の低い降水雲に切り替える降水物理モデルを導入し、2009年の台湾での豪雨を捉えた衛星降雨データ作成に成功した(Taniguchi, Shige et al. 2013, J. Hydrometeor.)。この成果は国際的に高く評価され、米国地球物理学連合発行モノグラフへの招待論文の投稿依頼に至った(Shige et al. 2014, AGU Chapman Conference Monography, 受理済)。この論文で、インド亜大陸西海岸の地形性降雨を対象にしたところ、降水雲の背の高さだけでなく、適切な固体降水粒子タイプ(雪あるいは霰)を降水物理モデルに組み込まなければ、精度向上できないことが分かった。さらに全球規模で適用したところ、地形性上昇流などの条件が同じでも、米国カリフォルニア半島の山岳域では、背の高い降水雲によって豪雨がもたらされており、地域によって地形性豪雨をもたらす降水雲の背の高さが異なることが分かった。
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