研究課題
本研究では糖タンパク質糖鎖変換に注目した「糖鎖プロセシングに基づく疾患解析」を提案する。我々の体内では折り畳み不良タンパク質の蓄積によって生命システムの下流で多様な疾患が発症する。一方、生命システムの上流でタンパク質の折り畳み・選別・輸送・分解にまつわる品質管理を制御しているのは糖タンパク質糖鎖のプロセシングである。本研究では疾患発症過程上流の糖鎖プロセシング状況の変化を疾患の痕跡と捉え、これを足掛かりに多面的な疾患解析を行うことで、早期診断や新しい治療法の創発に繋げることを目的としている。前年度までに試験管内で再構成した疾患特的糖鎖プロセシングデータは、正常細胞と疾患細胞の差異を評価するには高い表現力を有するが、実際の細胞内の糖鎖プロセシング状況を正確に示すのものではない。細胞内は様々な生体分子が高濃度(数百mg/mL)で存在する空間であり、一般的なin vitro解析とは根本的に反応場が異なるため、しばしば両者は異なった結果を与える。そこで平成24年度は疑似細胞内環境として試験管内に再現した分子クラウディング環境下で糖鎖プロセシング解析を行い、従来のin vitro環境下のそれと比較解析を行った。その結果、分子クラウディング下で本研究で注目する糖鎖プロセシング過程の前半は加速し、後半が減速することを見出した。本成果は疑似細胞内環境での糖鎖プロセシングに立脚した疾患解析を進めるための要素技術となるものと考えている。また前年度に糖鎖が結合するプラットフォーム構造によって糖鎖プロセシング状況が変化する現象を初期的に観察することができたため、平成24年度は糖鎖の根元の構造を多様化した一連の基質を合成し、結合プラットフォームの構造変化が糖鎖プロセシングに与える影響を精査する基盤を確立した。
2: おおむね順調に進展している
前年度に確立した合成糖鎖基質を基盤とした再構成糖鎖プロファイル法を用いて、2型糖尿病および骨粗鬆症モデル動物の細胞状態を評価した結果を学術論文として発表した。また本法を疑似細胞内モデルとしての分子クラウディング環境に適用し、in vitro実験とin vivo実験の相違を埋める成果を得て、これらを学術論文として発表した。以上の2点により、本研究計画は概ね順調に進展しているものと考えている。
当初計画では細胞状態による糖鎖プロファイル変化を、最終年度は遺伝子発現、タンパク質発現、活性発現の各レベルで精査し、階層横断的な理解を計画している。すでにこれらの実験に対し、初期的なデータを得ているので研究は計画通り進行すものと考えている。これに加え当初計画には含まれていなかったが、研究遂行中に糖鎖が結合するプラットフォーム構造によって糖鎖プロファイルが変化する事象を見出した。本年度までにこれらを精査するための基質群の合成を完了したので、最終年度にはプラットフォーム構造の違いによる糖鎖プロファイル変化に関しても解析を進めたい。
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