本研究では糖タンパク質糖鎖変換に注目した「糖鎖プロセシングに基づく疾患解析」を提案する。我々の体内では折り畳み不良タンパク質の蓄積によって生命システムの下流で多様な疾患が発症する。一方、生命システムの上流でタンパク質の折り畳み・選別・輸送・分解にまつわる品質管理を制御しているのは糖タンパク質糖鎖のプロセシングである。本研究では疾患発症過程上流の糖鎖プロセシング状況の変化を疾患の痕跡と捉え、これを足掛かりに多面的な疾患解析を行うことで、早期診断や新しい治療法の創発に繋げることを目的としている。 前年度までに試験管内で疾患特的糖鎖プロセシングデータを再構成し、正常細胞と疾患細胞の差異を評価できること、および当該糖鎖プロセシングが細胞内の高濃度(数百mg/mL)環境を模した疑似細胞内環境において、前半の過程は加速し、後半が減速することを見出した。 そこで本年度は糖タンパク質プロセシングに影響を与える細胞内分子シャペロンに対する相対活性を評価する新たな手法の開発に取り組み、これを確立した。また本手法とこれまでに確立した再構成糖鎖プロセシング解析法を応用し、細胞状態による糖鎖プロファイル変化を、遺伝子発現、タンパク質発現、活性発現の各レベルで精査し、階層横断的な解析を行った。その結果、メタボリックシンドローム関連疾患において、遺伝子発現、タンパク質発言、活性発言のレベルが必ずしも一致しない事例を見出した。さらに糖鎖が結合するプラットフォーム構造によって糖鎖プロセシング状況が変化する現象について精査し、糖鎖近傍の疎水性度がプロセシングに影響を与えることを見出した。また、糖タンパク質品質管理機構において基質の受け渡しを促進するいくつかの因子を特定するとともに、関連する新しい酵素を発見した。
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