研究課題/領域番号 |
23681052
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
錦田 愛子 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 助教 (70451979)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 中東 / 移民・難民 / トランスナショナル / パレスチナ / レバノン / 方法論 |
研究概要 |
本年度は、2011年にパレスチナ自治区で実施した世論調査に基づき成果発表を行うとともに、その補完として質的調査を行った。また同じ趣旨にもとづき、レバノンで世論調査を実施した。 成果発表としては、まず2012年6月にルクセンブルクで開催された国際研究集会に応募して参加し報告を行った。これは本研究課題の昨年の世論調査にもとづき、パレスチナ人の移動と、保持する身分証明書類、そこに影響を与えるイスラエルの民主主義体制の関係について分析を加えた内容である。この日の報告内容は、論文として体裁を整えて海外学術雑誌に投稿し、年度内には査読を受ける状態になった。また11月には内容的に関連する科研費の研究会にて本研究課題についての報告を行い、方法論としての量的調査と質的調査の併用について意見交換を行った。13年3月にはパレスチナ自治区のビールゼイト大学から招聘を受けて報告を行った。報告では、すでに調査の終了していたレバノンでの世論調査の結果をパレスチナ自治区のものと比較し、当事者からは気付かれにくい難民からの視点として提示した。 補完調査は8月に、エルサレムを拠点としてパレスチナ自治区で行った。移動に関する意識を聞き取り調査で明らかにする計画だったが、調査時期がラマダーン(イスラームの断食月)にあたったため、必ずしも予定した成果は得られなかった。 レバノンでの世論調査は、現地調査機関を比較検討した結果、当初の予定を変更してインフォメーション・インターナショナル社(以下I.I.)に依頼した。7月に契約を締結し、調査は9月後半から10月にかけて実施された。調査票の作成に際しては、昨年と同様、交付申請書に記載した協力者に研究協力をあおいだ。本調査はパレスチナ人の移動に関して、レバノンとパレスチナ自治区の双方で相似した質問項目を用いて行われるものとして、国際的にも高い価値のある内容といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、本研究課題で2011年に実施した世論調査に基づき成果報告を行うと同時に、新しい世論調査を実施し、昨年の補完調査を行なうという三本立ての計画を立てた。成果報告については、国内のみならず海外でも複数の研究集会において報告する機会を得ることができ、予定以上の進展をえることができた。ルクセンブルクにおいては移民/難民や民主主義に関心をもつヨーロッパ諸国の研究者と交流をもち、他地域の研究との比較の視点からコメントをいただいた。パレスチナでは、自治区を中心とする建国に関心が集中しているパレスチナ人自身にとって、難民の意識と移動実態というテーマを扱う本研究がどのような価値をもつか、反応をうかがうことができた。 新しい世論調査の進行も同様に良好であった。調査を依頼する現地機関の検討にやや時間がかかったものの、調査票の作成や、単純集計レポートの作成といった日本国内でのプロセスはきわめて順調に進んだ。またレバノン国内での調査も、現地情勢にかかわらず問題なく終えることができた。その結果、予定より早くレバノンでの調査結果の分析を開始することが可能になり、分析にもとづいた研究成果の発表を本年度内に始めることができた。 唯一予定通りの成果が得られなかったのは、補完の質的調査であるが、こちらについては今後、調査に適切な時期を選んで再度実施していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題による世論調査は、昨年度でその実施がすべて終了しているため、最終年度にあたる本年度は、それらの結果に基づき積極的に成果の分析および発表を進めていく予定である。まず、5月の日本中東学会年次大会にて報告をおこなう。本報告は、レバノン国内の難民キャンプ在住パレスチナ人と、レバノン市民との間の移動に関する意識を比較するもので、2012年に本課題でI.I.に委託した調査と、他の科研費調査の結果がベースとなる。また2011年に本課題で実施した調査も参照される。次に、昨年ルクセンブルクの国際集会で報告した内容について、まとめた論文を学術雑誌で公開していく。本論文はすでにアメリカの研究雑誌Sociology Studyの査読を通過しており、掲載のための手続きを進めていく。さらにこれまでの調査結果にもとづき、新たな枠組みで成果をまとめ、査読付き学術雑誌への論文投稿、国内外でのその他の研究集会での報告などを進めていきたい。これらに加えて、本研究課題と近似の問題関心をもつ共同研究会との間で合同の研究会を開催し、アプローチの違いによる分析結果の違いについて比較を行なうなど、研究交流も計画している。昨年から継続が必要な内容としては、パレスチナ自治区およびレバノンにおける補完調査があるが、これらは今年度中の適当な時期に実施し、量的調査では分からなかった点について、質的調査の手法で明らかにしていきたい。各地域に対して、量的・質的調査のそれぞれの手法が映し出すパレスチナ人社会の像を比較することで、各アプローチの利点と欠点、相互の補完がもたらす成果を明示することが目標となる。
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