本研究は、絵巻の研究を従来顧みられることのなかった伝来や鑑賞歴といった作品の付属情報から捉え直すものである。研究にあたっては、伝来、鑑賞歴に関わる情報を収集・蓄積した上で、絵巻が今日に至るまでにどのような軌跡を経て伝世したのかという、各作品の通時的な歴史性に配慮し、絵巻という媒体全体を視野に入れた総合的な分析を行うことを最終的な目標として設定する。具体的には、以下に示す三つの作業を進めた。 【1.文献資料記載絵巻関係資料の抜き出しとデータ化】 本研究が対象とする絵巻の伝来、鑑賞情報を得るためには、日記、古記録等の文献資料を博捜し、そこに記載された本文を整理する必要がある。抜き出しにあたっては、絵巻のみならず仏画、肖像画、屏風等、絵画関係の記事をピックアップし、本年度はおよそ57タイトルの文献資料から約5300件の記事を抜き出し、その一部をデータ化した。 【2.東京国立博物館所蔵絵巻模本の調査】 絵巻模本の多くは近世に作られたが、その制作に際して、所蔵者や伝来等の情報が記されている場合がままある。本研究では、東京国立博物館所蔵絵巻模本の悉皆調査を目指し、目録の整理、撮影、所蔵者や伝来、模写者等の情報を収集すべく、模本リストの整理に着手した。調査順は列品番号順を基本として進め、本年度は幕末の復古やまと絵師による模本など約60件の調査を行うことができた。 【3.東京文化財研究所所蔵売立目録の調査】 上記の1と2が前近代における絵巻情報の収集と整理であるのに対し、近代における作品の移動等を追うため、売立目録に記載された絵巻の調査を進めた。とりわけ、東京文化財研究所には国内有数の売立目録が所蔵されており、その全てから、絵巻を中心とするやまと絵の情報を抜き出し、PDF化を進める準備を整えた。本年度は、昨年度までの抽出したデータの校正と、試験版データベースでの画像ファイルとのリンクを進めた。
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