研究課題/領域番号 |
23682003
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館 |
研究代表者 |
永島 明子 独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館, 学芸部・企画室, 主任研究員 (90321554)
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キーワード | 美術史 |
研究概要 |
研究の初年にあたり、必要機材等を揃え研究環境を整えた。第一回海外調査はドイツのフリーデンシュタイン城美術館にて明治政府が初の国賓に贈った品を調査した。特に未紹介の画帖の現存状況を確認し1300カットを越える画像に記録したが、この画帖の構成を入念に分析することで当時の贈答品発注の実態を探ることができるだろう。第二回海外調査はスイスのバウアー・コレクション美術館のほか、同館学芸員ヘレン・ラヴデイ氏の勧めにより、同コレクションにも詳しいオランダの個人蒐集家宅に赴いた。同時にライクス・ミュージアムにも立ち寄った。個人宅とバウアー・コレクションでは、明治・大正期の蒔絵の優品数十点を見比べ、東京と京都の、技法や意匠の傾向の違いを認識することができた。ライクス・ミュージアムでは同館学芸員ヤン・ファン・カンペン氏の知遇を得て、近世の東西交流の中で生まれた美術工芸について、実物や写真を前に意見交換し、帰国後も情報交換を続けている。スイスではラヴデイ氏の紹介でジュネーヴ市立民族学博物館での調査も実現し、同館学芸員ジェローム・デュコール氏とともに膨大な収蔵品の中から17世紀の輸出漆器や香道具の珍品等を見いだした。海外研究者の招聘は、当初ラヴデイ氏を計画したが、別の財源による来日が可能とのことだったので、24年度計画を前倒ししてフランスのオルセー美術館名誉学芸員ジュヌヴィエーヴ・ラカンブル氏を招いた。 フランス革命後の東洋美術蒐集について教わり、画像資料に基づき19世紀フランスの蒔絵蒐集について意見を交換した。ラカンブル氏とはまた、鶴見大学の加藤寛氏の協力の下、蒔絵や変り塗りの実技を体験し、漆芸への理解を深めた。氏の来日中、京都国立博物館に外国人客員研究員として滞在していたスペイン国立オビエド大学の川村やよい氏や、京都国立博物館ボランティア調査員である立命館大学のビンチク・モニカ氏を交え、蒔絵の輸出について種々議論した。ここで得られた知見や人脈は今後の研究に活かされ、共同研究の契機となるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおり、二箇所の海外調査を行い、幕末から近代にかけての京都製蒔絵の実例を中心に数多くの作品を実験することができ、これらに基づいて近代漆器に対する新たな認識を得ることができた。また、海外で活躍する研究者たちと情報や意見を交換する機会を持つことができた。
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今後の研究の推進方策 |
23年度の招聘を計画していたラヴデイ氏の所属する機関は研究費が潤沢であり、いつでも来日くださるとのことだったので、24年度の計画を前倒ししてラカンブル氏を招いた。24年度は、ラカンブル氏の教え子でもあり、24年度の調査対象であるルーヴル美術館蔵のティエール・コレクションをテーマに修士論文を執筆した、エコール・ド・ルーヴル博士課程在籍の今井朋氏を京都国立博物館に招聘し、フランスのコレクションについての最新情報を教えてもらうと同時に、当館にある情報を今後の氏の研究に役立ててもらえるよう計らいたい。24年度の海外調査は、ルーヴル美術館およびボストン美術館からおよその日程の内諾も得られたので、予定どおり推進できる見込みである。
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