5月に、昨年度までの研究成果の一部を当館研究紀要『学叢』に「ルーヴル美術館蔵アドルフ・ティエール(一七九七~一八七七)蒔絵コレクション」として発表することができ、19世紀パリにおける東洋趣味の流れと日本製漆工作品の流通状況のおよその対応を掴むことができた。秋には、昨年度にひきつづき、イギリスのV&A美術館とフランスのパリ装飾美術館の収蔵庫にて漆器を調査した。万国博覧会の時代を中心とした膨大なコレクションを誇るV&A美術館では、漆器の調査のみならず保存修復作業で漆器や漆の樹液を扱っている家具修復担当者との意見交換も行った。同様に、フランスでは、19世紀のコレクターたちの膨大な寄贈作品を誇るパリ装飾美術館の漆器をほとんど熟覧することができた上に、ルーヴル美術館の学芸員やオルセー美術館の名誉学芸員、パリで漆芸品やラッカー塗りの家具を中心とした文化財修復を行う専門家などとも日本製漆器の受容のありようについてさまざまな意見交換を行うことができた。昨年同様、パリ装飾美術館では、調査内容はフランス語でも記録され、先方の台帳情報に役立てられることになっている。本年度は同館の文献情報センターでの調査も行い、2年間に調査した漆器の全てについて寄贈者等の来歴情報を収集した。パリ装飾美術館からは、先方のコレクションを用いた展覧会を企画しないかとの提案も受けた。1月にはV&A美術館の漆芸担当学芸員のジュリア・ハット氏を招聘し、熱海美術館や清水三年坂美術館などで19世紀のコレクションの展覧会をともに見学し、種々の意見交換を行うことができた。また、昨年度より本研究も貢献してきた京都国立近代美術館開催の近代の京都の漆器に関する展覧会についての評論の執筆を通じて、本研究の結果とらえることのできた近代京都の漆器の特性について一般社会に伝えることができた。
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