世界最古の農耕が発祥した西アジアを舞台に、農耕の開始前から開始後にかけての植物利用や植生環境の変化について実体解明をしようとしている。遺跡にて発掘された植物遺物について、顕微鏡で同定している。前年度に半年間の育児休業を取得して、復帰してからの研究報告になる。成果の全容としては、農耕開始以前の出土植物を西アジア広域で多数同定できたことによって、これまで考えられてきた以上に「木の実」(ピスタチオ、アーモンド、エノキなど)の利用が多いことがわかってきた。 デデリエ遺跡(シリア)のナトゥーフ期の出土植物について、ギリシャで開催された国際学会IWGPおよび著書発表した。同年代の出土植物は西アジア全域で極めて少ないが、本遺跡ではさらに稀有な焼失家屋が発掘され、非常に価値のある公表物になったと考えている。同遺跡の旧石器時代ムステリアン文化層についても同定を行い、これから報告書をまとめる段階である。チャハマック遺跡(イラン、新石器時代)の樹種同定を行い、植生環境について英仏研究者を招いた国際シンポジウムにて口頭発表した。前年度に現地調査したタンゲシカン遺跡(イラン、上部旧石器時代)については、調査団から研究論文用の成果を取り急ぎ求められており、一次仕分けを7割ほど行った現状で成果をとりまとめる調整をしている。レヘシュ遺跡(イスラエル、鉄器時代)については報告書用の植物同定結果を調査団に報告したので、いずれ編集刊行されると考えている。ハサンケイフ・ホユック遺跡(トルコ、新石器時代PPNA期)については、当年までに回収した全資料の一次仕分けが終了できたところであるが、次年度にもう1回調査を行ってからとりまとめる予定にしている。この遺跡については、ピスタチオ野生種が利用されていたという本研究の成果の一部が、民法テレビ(「世界ふしぎ発見」)で解答として放映された(11月)。
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