初年度である今年度は、東北アジアという地域を設定して金属器の拡散過程および在地社会の変化の研究を進めて行くという研究の枠組みの有効性の確認や、国内外の研究者との意見交換を積極的に進め、現状で明らかになっていることを整理した。それをもとにし、現地調査や発掘調査報告書の吟味を通して、(1)青銅器と鉄器の受容過程が東北アジアと西北ヨーロッパでどう異なり、それが石器製作にどう影響しているのか、(2)金属器受容期の食料生産、特に農耕の形態はどのようなものであったのか、(3)磨製石器製作工房からの出土遺物と周囲の石材分布調査・実験製作を通じた石器製作技術の復元、(4)鉄器普及期前後の住居や集落の様相などについて、一定の見解をまとめ、それぞれ発表した。(1)については、前者が青銅器の後まもなく鉄器の普及をみたのに対し、後者がそうでなかったこと、それによって威信材としての石製武器の消長が両地域で大きく異なることを指摘し、(2)については、炭化イネ頴果の安定同位体比分析を用いて青銅器時代の稲作が水稲であった蓋然性を補強することで従来の陸稲先行説を具体的根拠をもって批判し、(3)については、原石から製品にいたるまでの製作工程を一つの遺跡の中で段階別の素材や加工道具を示して初めて復元し、(4)についてはカマドの受容という画期的な事件が鉄器受容期に前後して起こっていたことを明らかにした。また、ロシア、朝鮮半島、日本における武器形石器のあり方について学術誌に特集を組み、地域間比較を試みたが、この内容が近日出版される予定である。
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