研究課題
本研究はアメリカ・イギリス・韓国を事例として、先進国におけるマイクロファイナンスの現状を明らかにするものである。1)アメリカ・フィラデルフィア市のマイクロファイナンス機関WORCの協力により、WORCの利用者に経営コンサルティングを1年間試験的に提供し、その有効性を検証した。この調査結果を、Urban Affairs Association (UAA)第43回年次大会で発表した。この経営コンサルティングは、返済の遅れた利用者を対象に事態の改善を促すもので、難易度が高いため、実際にはこれまであまり手を付けられてこなかった。2)アメリカ・ニューヨーク市のマイクロファイナンス機関BCNAの協力により、BCNAから融資を受けて零細事業を営む者にインタビューを実施し、マイクロファイナンスが利用者にもたらす経済的・社会的効果を多面的に評価した。この調査結果を、Owen Strong氏との共著により報告書にまとめて公刊した。従来、雇用数や起業数といった効果ばかりが注目されてきたが、それ以外にも金融の基礎知識やビジネススキルの修得、所得・資産の増加、自己効用感など多面的な効果をもたらすことが明らかになった。3)イギリスのマイクロファイナンスの現状について、マイクロファイナンス機関の経営者や政府の担当者にインタビューを実施した。この調査結果はアメリカのNPOに関する学会ARNOVAの大会(2014年11月)で発表申請中である。イギリスは1990年代末以降マイクロファイナンス政策が頻繁に変わった。政策の変化からマイクロファイナンスの現場はどのような影響を受けているのかを把握することができた。4)平成26年度に韓国のマイクロファイナンスを本格的に調査するに先立ち、この分野の研究者・実践家との関係構築および予備調査を行った。ソウル市での予備調査を通して、韓国の状況の概要を把握することができた。
1: 当初の計画以上に進展している
平成25年度の研究実施計画においては、5項目を計画した。これらのうち「1.マイクロファイナンスの成果評価」については計画どおり、BCNAを事例とした調査を行い、報告書を公刊することができた。「2.イギリスのマイクロファイナンスの現状」についても計画どおり、イギリスのマイクロファイナンス機関を訪問してインタビューを実施した。「3.韓国のマイクロファイナンスの現状」については、計画では「文献を収集して状況を明らかにする」にとどまっていたが、実際には文献収集にとどまらず、韓国を数度にわたり訪問して、研究者・実践家との関係構築や予備調査も実施することができた。「4.NPOのソーシャル・マーケティング」については、計画どおりInvesting in Ourselves (IO)を事例としてソーシャルメディアによるマーケティングの効果を検証した。この調査結果を、Association for Nonprofit and Social Economy Research (ANSER)の学会大会(2013年6月)で発表した。「5.成果発表」については、当初予定していた上記の学会大会での発表に加えて、各種の研究会にて発表する機会を得るとともに、英語の論文を2本公刊することができた。総じて、当初の計画を超えて研究が進展したといえる。
本研究はアメリカ・イギリス・韓国を事例として、先進国におけるマイクロファイナンスの現状を調べ、これらの国での成果を参考にして、日本にマイクロファイナンスを導入する可能性を明らかにすることを目的としている。前年度までは主にアメリカ・イギリスの現状を調べたが、今後はそれらを踏まえつつ、アジアに視点を転じ、韓国におけるマイクロファイナンスの現状調査に主力を注ぐ。韓国は近年になってようやくマイクロファイナンスが始まったばかりとはいえ、政府が積極的に推進する政策を掲げており、また韓国は日本と国情が似ていることから、日本にとって参考になる面が大きいと思われる。韓国調査とあわせて、日本におけるマイクロファイナンスの実態調査を行う。日本では多重債務者の生活再生融資や生活福祉資金貸付制度などの取り組みがみられるが、近年では日本に住む難民の経済的自立を図るため、難民起業サポートファンドが難民起業家に対して少額の融資を始めた。アメリカ・イギリス・韓国および日本の実態調査を総合して、日本におけるマイクロファイナンスの持続可能な経営モデルを検討し、本研究の総括を行う予定である。本研究におけるこれまでの調査からは、マイクロファイナンスの持続可能な経営のためには、利用者に対する経営支援の提供、資金調達や運営費などに関する政策的な支援、マイクロファイナンスの社会的インパクトの評価が重要な論点になってくると考えられる。今後も引き続き、先進国のマイクロファイナンスの意義と課題を明らかにする研究を進めたい。
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経営論集(明治大学経営学研究所)
巻: 第61巻 第3号 ページ: 131-175
Meiji Business Review (The Institute of Business Administration, Meiji University)
巻: Volume 61, Issue 4 ページ: 3-29