研究概要 |
本研究の目的は,上場企業の経営者が真摯な態度で経営活動をおこない,その経営活動の結果を,財務報告を通じて中立的かつ誠実に開示することが,情報作成者にとっても有意義である,という仮説を,企業価値向上という観点から実証的に確認することにある.具体的には,短期的には費用の増大やキャッシュフローの減少など,企業にとっての不利益を招くと考えられる,定時株主総会の活性化や,温室効果ガス削減のための投資,さらに従業員教育のための投資が,中長期的には企業にプラスの効果をもたらし,企業価値の向上につながることを確認し,近視眼的な経営をおこないがちな経営者に反証を与えることを目指している.以下,3つのテーマのそれぞれについて研究実績をまとめる. (1)定時株主総会活性化の影響については,株主総会活性化の程度と株式リターンの同調性(いわゆる市場モデルに基づく回帰式における決定係数)の関係について分析し,両者の正の相関を確認した.このことは,株主総会活性化企業においては,その他のディスクロージャーの質も高く,株式市場も個別企業の情報に強く反応することを示唆している.なお,この分析結果はすでに論文として公表済みである. (2)温室効果ガス削減のための投資の影響については,温室効果ガス排出量の少ない企業の株式時価総額が高いこと,排出量を削減した企業の株式リターンが高いことを確認している.この分析結果について,SBSC(Sustainable Balanced Scorecard)の考え方を用いて経路の特定をおこなった.この分析結果は,和文・英文での論文として公表済みである. (3)人的資産への投資の影響については,企業の人件費と企業価値との間に正の相関があること,全従業員を対象とした賃下げは企業価値をかえって毀損する可能性があること,などを確認した.この結果は,すでに論文として公表済みである.
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