本研究の目的は,上場企業の経営者が真摯な態度で経営活動をおこない,その経営活動の結果を,財務報告を通じて中立的かつ誠実に開示することが,情報作成者である企業にとっても有意義である,という仮説を,企業価値向上という観点から実証的に確認することであった.特に,(1)定時株主総会の活性化,(2)温室効果ガス削減のための投資,さらに(3)従業員教育のための投資を取り上げ,中長期的な視野を持った経営をおこない,それを財務報告を通じて投資家に開示することに対し,投資家がポジティブな評価をおこなっていることを検証した. 平成25年度までにそれぞれのテーマについて肯定的な実証結果が得られている.まず,(1)については,定時株主総会の質とディスクロージャーの質との間に正の相関関係が観察された.(2)については,温室効果ガス排出量の少ない企業の企業価値が高いことを確認したうえで,現状の温室効果ガス排出量が多いとしても,将来に向けたコミットメントを宣言している企業に対しては,投資家がそれほど強いネガティブな評価をしないことを確認した.また,SBSCの考え方に基づいて,温室効果ガス排出量が企業価値に影響を与える経路を特定した.さらに,(3)については,企業の人件費と企業価値との間には正の相関があることと,全従業員を対象とした賃下げは企業価値をかえって毀損する可能性があること,などを確認した.これらの結果は,すでに論文として公表済みである. その上で,今年度(平成26年度)は今後の財務報告のあり方を検討した.近年注目されている統合報告の考え方は,従来のCSR報告書等の作成方針とは異なり,「投資家に対して,企業価値に関連する非財務情報を提供する」ことを目的としている.そこで,(1)~(3)の情報を統合報告において公表すべき情報として提案する,という方向性を提示した.今後,これらの研究成果は論文として公表予定である.
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