研究概要 |
本研究は,高齢期の社会的ネットワークおよび社会活動を維持していくうえでのインターネットの役割を明らかにし,活動能力が低下しても社会とつながり続けられる豊かな高齢社会を実現するために必要な知見を得ることを目的としている. 研究の一年目である本年は,社会関係や活動の縮小が危惧される後期高齢層を対象に,加齢のプロセスとICTの役割について質的調査を行った.調査は,高齢者層へのインターネットの普及を行う指導者育成制度の認定団体「NPO法人自立化支援ネットワーク(IDN)」の講座を受講した後期高齢者を対象とした.会全体で後期高齢者の占める割合は低く,70歳代以上に対象を広げて協力者を募った結果,23名の協力者を得た.一人当たり1.5~2時間程度の半構造化面接方による個別インタビュー行った. 現役時代に興味はあってもICTに関わる接点がほとんどないまま退職をむかえた人と,出向先などで限られた機能のみを使っていた人が存在した.退職後にICTに関心を示したきっかけは,知的好奇心の充足を目的とした「終わりのない挑戦」,やる事のない毎日のなかで認知症予防を目的とした「健康の維持」,それまでの知識を活かして地域社会などとの関わりを得ることを目的とした「社会参加の手段」の3つに分類された.年齢を重ねていくなかで,社会とつながり続けるための交流媒体としてICTを位置づけ,facebookやスマートフォンなどの新たな技術を生活に取り入れることに積極的な姿勢をみせる人がみられた.その反面,電子メールと検索機能といった限られた機能を使い続けることで満足する人や,ほとんどICTを使わなくなっている人もみられた.この結果は,加齢のプロセスとICTの役割,孤立防止や見守りのあり方などを検討する上で考慮すべき重要な視点であり,本データの分析を進めると共に,二年目に行う量的調査にも反映させたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
都市部の後期高齢者23名を対象にしたデプス・インタビュー調査から,高齢期における活動継続に向けたインターネットの可能性に関する知見を得ることができた.また,このインタビューからは,次年度に行う定量調査の質問項目の妥当性も検証できたことから,初年度の研究目的をおおむね達成していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
研究の二年目にあたる24年度は,中年期(55~64歳)および前期高齢期(65~74歳)の都市住民を対象に,インターネットを介した交流と社会活動の実態,QOLとの関連について量的調査により明らかにする. 電子メールを介した他者との交流と社会活動についての詳細なデータを得るために,自記式の郵送調査などではなく,訓練された調査員による訪問面接法により行うことが求められる.そこで,6月末までに訪問面接調査実績の豊富な調査会社を選定し,調査員の訓練と管理等について十分な打合せを行う. 同時に,調査地域として想定している東京都中野区の関連機関との情報交換を密に行い,円滑な調査実施と住民への効果的なデータの還元方法を検討する. 調査の実施後は速やかにデータのクリーニングと入力を行い,年度内の予備的分析の完了を目指す.
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