本研究の目的は、人々が2つの社会的学習戦略を適応的に使い分けている可能性を検討することにある。昨年度に引き続き多数派同調戦略とベストメンバー戦略の理論的比較を行った。本研究の結果、現実的に存在しうるパラメータ領域においてベストメンバー戦略が多数派同調戦略の成績を上回ることを見出した。従来の研究では、広範なパラメータ領域において多数派同調戦略の方が有利であると指摘されてきたが、その結論は研究者が暗黙理に恣意的な前提をおいたことから生じた可能性を示唆する。だが理論研究においては研究者がパラメータ領域を恣意的に設定可能であるという問題が存在する。そこで本研究では現実世界から生態学的サンプリングによって抽出された生態学的妥当性を満たす知識判断型課題を作成し、現実の世界において、どちらがより有利な戦略であるかを検討した。興味深いことに、現実世界からサンプリングされた様々な課題において、多数派よりもベストメンバーの方が遥かに高い成績を収めることが見出された。だがこれは、多くの場面で人々は有能な個人よりも多数派に同調する強い心理的傾向を持つという実証的知見と矛盾する結果である。この問題を解き明かすために、新たな要因に着目した。それは誰が最も優れたメンバーであるを見出す過程そのものが不確実性を伴う推論課題であるという点である。新たな理論分析の結果、たとえベストメンバーが多数派の成績を上回る状況であっても、真のベストメンバーを見誤る可能性がわずかでも存在する限り、多数派に従うことは相対的に優れた戦略であることが見出された。この結果は、人々がベストメンバーが確実に特定できる場面でのみ人々はベストメンバーに従うという先行研究の知見とも合致する結果である。一連の研究は社会的学習戦略の適応的基盤に関する議論に様々な理論的貢献を成し遂げたといえよう。一連の研究に基いて現在論文2編を準媚中である。
|