本研究の目的は,包括的な遠隔心理支援システムの開発である。遠隔心理支援に関する先行研究で明らかとなった重要課題を引き継ぎ,国内の要援助者の需要と状況に特化した,支援システムを開発することがねらいである。 本年度は,昨年度作成した遠隔心理支援者の訓練プログラムについて,その有効性の検証を行った。傾聴ボランティア講座の受講生(被験者)12名を対象として,シャドーイング法(作動記憶を強める同時通訳訓練法)を導入し,心理検査を用いて,遠隔心理支援者に求められる認知的能力の向上について検討した。被験者には,ニュース番組の視聴を求めながら,約30日間で毎日10分程度,段階的な訓練(①傾聴,②マンブリング,③プロソディ・シャドーイング,④コンテンツシャドーイング,⑤要約)を行わせた。訓練期間の前後(平均53.08日)で比較した結果,WAIS-III成人知能検査における全検査FIQの評価点をはじめ,動作性PIQ ・作動記憶WM (p<.01),言語性VIQ・知覚統合PO・処理速度PS (p<.05)の各評価点に,有意な向上が認められた。また,WMS-Rウエクスラー記憶検査でも,一般的記憶(言語性記憶と視覚性記憶)の上昇に,有意傾向が認められた(p<.10)。さらに,多次元共感性尺度においては,被影響性や想像性,自己志向反応性が有意に低下する一方で,他者志向反応性が向上した(いずれもp<.01)。統制群のない前後比較の実験であったが,認知的な傾聴スキルの訓練プログラムの有用性が示唆されたといえる。 プログラムの被験者は,一部,研究室サイト(ユビキタス・カウンセリング)の遠隔心理支援者として採用し,一般の地域住民の遠隔カウンセリングや遠隔コンサルテーションに従事させた。研究室サイトへの延べ相談件数(平成25年度)は,964件であった(電話もしくはSkype通話のみ)。地域住民のメンタルヘルスの向上にも,寄与することができた。
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