研究課題/領域番号 |
23683021
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
高橋 阿貴 国立遺伝学研究所, 系統生物研究センター, 助教 (30581764)
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キーワード | 過剰な攻撃行動 / セロトニン / 背側縫線核 / 光遺伝学 / コンソミックマウス系統 |
研究概要 |
本研究では光遺伝学的手法を用いて、(1)背側縫線核セロトニン神経系の興奮、抑制が過剰な攻撃行動を誘発するかを直接的に検証する。さらに、順遺伝学的手法を用い、(2)過剰な攻撃行動とセロトニン神経活動に関わる遺伝要因の同定を試みる。本研究により、過剰な攻撃行動の生物学的基盤としてのセロトニンの役割を明らかにし、それを抑制するためのメカニズムを探索する。 (1)セロトニン神経系の直接的な活動調整のため、光受容体の背側縫線核への発現をレンチウイルスを用いて試みている。まず、非特異的プロモーターであるEFlaを用いてウイルスを作成し、背側縫線核内への感染を確認した。このマウスを用いて、攻撃行動の観測をしながら光刺激を与えるための実験装置の準備も行った。セロトニン神経特異的なSERTプロモーターを用いたレンチウイルスは作製中である。生理学研究所の山中章弘博士、田中謙二博士との共同研究であるTet発現系を用いたセロトニン神経特異的な光受容体発現トランスジェニックマウスについては、1ヶ月後には行動解析が可能となる。また、セロトニン神経の投射先のどの脳部位が、過剰な攻撃行動に関与するかを検討するためにcFos発現解析を行った。その結果、視床下部や扁桃体に加え、内側前頭葉領域の活性が、通常の攻撃行動と過剰な攻撃行動の間で異なることが明らかとなった。 (2)過剰な攻撃行動に関わる遺伝要因の同定のために、野生由来系統MSMの過剰な攻撃行動とセロトニン神経活動の詳細な解析を行った。MSMのどの染色体上に攻撃行動に関わる遺伝子座が存在するかを検討するために、コンソミック系統群を用いて解析を行い、いくつかの染色体を同定した。現在はこれらのコンソミック系統のセロトニン受容体などのmRNA発現解析を行っている。また、攻撃行動を増加させる特定の染色体について、コンジェニック系統の作出・解析を行い、遺伝子座の同定を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レンチウイルスを用いた発現系では、まず神経非特異的なウイルス(EFlaプロモーターを用いたChR2発現)が作出でき、背側縫線核への感染が確認された。このマウスを用いて行動実験も始めており、攻撃行動に耐えうる実験装置が準備できた。セロトニン神経特異的な発現ウイルス(SERTプロモーター使用)は現在作成中である。また、Tet発現誘導系を用いたセロトニン神経特異的な光受容体の発現系については、共同研究者である山中章弘先生、田中謙二先生よりTph2発現領域におけるChR2(活性化)とArch(抑制)の特異的な発現マウスを供与いただいたものが現在交配作成中であり、来月から行動実験が可能となる。
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今後の研究の推進方策 |
背側縫線核でのChR2発現マウスの準備ができたので、光刺激による行動実験を行い、神経活動と攻撃行動の関係を明らかにする。また、セロトニン神経特異的Arch発現マウスを用いて、抑制による効果も検討していく。また、順遺伝学的な解析も更に進めて行く。野生由来MSM系統の過剰な攻撃行動に関わる染色体がいくつか明らかとなってきており、それらのコンソミック系統の各脳部位のRNAサンプルも順調に集まってきている。これらを用いて、セロトニン受容体や合成酵素の発現を検討する。更に、攻撃行動を増加させたコンソミック系統のコンジェニックの作出、解析も行っており、遺伝子座の候補領域を狭めていく予定である。新たな発見としてマイクロダイアリシスの実験から、背側縫線核内のグルタミン酸の放出変化が、過剰な攻撃行動を引きおこすということも明らかになった。背側縫線核グルタミン神経は前頭葉からの投射神経であることが知られており、今後この投射経路を標的として光操作していくことも検討していく。
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