研究課題
本研究では光遺伝学的手法を用いて、①背側縫線核セロトニン神経系の興奮、抑制が過剰な攻撃行動を誘発するかを直接的に検証する。さらに、順遺伝学的手法を用い、②過剰な攻撃行動とセロトニン神経活動に関わる遺伝要因の同定を試みる。本研究により、過剰な攻撃行動の生物学的基盤としてのセロトニンの役割を明らかにし、それを抑制するためのメカニズムを探索する。①については、Tet発現系を用いたTph2発現領域(セロトニン神経)に特異的にChR2(活性化)もしくはArch(抑制化)を発現させるKENGE-tetトランスジェニックマウスを用いて解析を行っている(名古屋大学山中章弘博士と慶応義塾大学田中謙二博士との共同研究)。ICR系統との交雑により攻撃行動を高めた個体で光操作実験を行ったところ、光刺激の頻度依存的な攻撃行動への効果の違いが認められていきており、現在更に解析を行っているところである。また、これまでの解析から過剰な攻撃行動への前頭前野の関与が示唆されていたことから、前頭前野の興奮性神経細胞の光操作を行う解析も行い、内側前頭前野を興奮させることによって攻撃行動が抑制されることを明らかにした。②については、過剰な攻撃行動に関わる遺伝要因が存在することが同定された15番コンソミックマウスについて、更に狭い領域のみをMSM型に置き換えてあるコンジェニック系統の解析から、攻撃行動に関わる領域が狭められてきている。現在は、目的領域の中の遺伝子について、CRISPR/Cas9の系を用いてノックアウトを作製する準備を行っているところである。
2: おおむね順調に進展している
トランスジェニックマウスの遺伝的背景の系統の攻撃行動が低かったことから、去年度は光刺激の攻撃行動に及ぼす影響を調べることができなかったが、ICR系統との交雑によって安定した攻撃行動を観察できるようになり、それによってセロトニン神経の活性化や抑制化の攻撃行動への影響を調べることができるようになった。まだ解析段階であるが、活性化を行う際の光刺激の頻度に依存して、行動への効果が異なる可能性も示唆されてきており、これは攻撃行動におけるセロトニン神経の役割を理解するうえで大変新しく興味深い結果である。また、攻撃行動の遺伝マッピングについても、候補遺伝子の数がかなり少数に絞られてきている。
攻撃行動におけるセロトニン神経の発火頻度依存性をさらに詳細に調べていく。いまのところ、2種類の発火頻度操作による影響を検討しており、1つの操作のみが攻撃行動を変化させることが見えてきている。今後はさらに異なる発火頻度の操作を行っていくとともに、名古屋大学の山中章弘博士との共同研究により、これらの光操作が実際にセロトニン神経をどのように発火・抑制しているかをin vitroで電気生理学的に確認するとともに、当研究室ではマイクロダイアリシスを用いてセロトニン放出の挙動の検討を行う。また、現在使用しているChR2受容体(C128S)は、頻度依存的な光操作にあまり適してないため、異なる変異型ChR2(ET/TC)を発現しているトランスジェニックマウスも用いて解析を行う予定である。また、順遺伝学的な解析も更に進めていく。15番染色体の候補領域は遺伝子がかなり少ないところまでマッピングを行うことができているため、それらの遺伝子についてCRISPR/Cas9の系を用いたノックアウトマウスの作成を現在行っている。この実験系はかなり迅速なノックアウトの作成が可能であり、次年度中に結果が得られることが期待される。このノックアウトを用いて、MSMの高い攻撃行動に関わる遺伝子を明らかにするとともに、セロトニン神経系との関わりについても検討したい。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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