本年度の「研究実施計画」に基づいて以下のとおり調査・研究を進めた。 (1)「吉田巖遺稿資料」(帯広市図書館所蔵)の整理・読解を継続的に進めつつ、吉田巖(1882-1963)の台湾学事視察旅行に関して北海道内および台湾島内発行の新聞・雑誌等の調査を行った。収集・整理した資料は、遺稿資料中の台湾関係資料(約500点)を中心として詳細な書誌目録を作成するとともに、吉田の台湾視察に関わる主要資料(約70点)の翻刻を行い、解題を付して刊行した。本研究期間を通じて、吉田の手記や書翰のほか、公文書や学校文書など、国内外の他機関では見られない貴重な台湾関係資料を数多く確認し、その共有化を進めることができた。 (2)昨年度に引き続き、内海忠司(1884-1968)の日記・回想録や関連資料の分析を進め、植民地官僚の退職直後の活動と人的ネットワークに即して帝国統治のありようを検証した。とくに、これまで未解明であった台湾総督府東京出張所に焦点を据えて、植民地台湾と帝都東京を往還した人や情報の具体的様態を検証し、総力戦体制下における〈植民地―中央政府〉の関係の変化について考察した。その成果は日本台湾学会にて発表し、論文として完成度を高めたうえで、内海忠司関係文書の翻刻とあわせて刊行した。 (3)昨年度のカナダ長老教会文書の調査結果をふまえて、ロンドン大学SOAS所蔵のイングランド長老教会文書のうちマイクロフィルムとして公刊されている文書の調査・収集を行った。前年同様に台湾関連資料の目録および台湾派遣宣教師の悉皆的なリストを作成して、欧米ミッショナリーの台湾先住民宣教に関する基礎的データを蓄積するとともに、とくに人・情報・資金面におけるカナダ長老教会との関わりに留意しつつ資料の整理・読解を進めた。今回の調査により、霧社事件を機とする両長老教会宣教団の先住民伝道をめぐる新たな動向を確認することができた。
|