研究課題
本研究では、核力の斥力芯の起源を解明するために、その起源の一つとされるクォーク間でのパウリ斥力があらわに現れるシグマ陽子間の相互作用をシグマ陽子散乱の微分断面積を測定することにより明らかにすることを目的としている。そのために、シグマ粒子を大量に生成するために、10MHzの高パイ中間子ビーム強度下で実験を可能にすること、およびシグマ陽子散乱で生じる陽子を検出するアクセプタンスの大きな散乱陽子検出器(円筒形ファイバー検出器(CFT)とBGOカロリメーターからなる)を製作することが大きな課題である。BFTに関しては320本のファイバーを平面上に並べた位置検出器を開発し、実際にK1.8ビームラインにインストールを行った。従来の10倍以上のビーム強度である6MHzのビーム下においても、99%の高い検出効率および0.78nsという十分な時間分解能を有することを確認した。散乱粒子検出器に関しては、まずBGOおよびCFTのプロトタイプを製作し、性能を評価した。BGOに関しては、80MeVの陽子を照射して、1.2%(σ)のエネルギー分解能を得ることができ、十分に要求される性能(3%)を満たすことを確認することが出来た。またCFTは、実機としては8層構造を予定しているが、まずファイバーを円筒形に組み上げることの構造的なR&Dを行うために、3層からなるプロトタイプをまず製作し、検出器として製作の実現の可能性から性能の評価を行った。特にファイバーを螺旋状に配置するという位置検出器は初めての試みであったが、効果的に位置決めジグを配置することにより、製作を可能にすることが出来た。ファイバーの読み出しとしてはMPPCを用いており、全体で1200チャンネルの読み出しをEASIROCボード(ver1)を用いることで可能とした。
3: やや遅れている
本研究では、以下の2つが主な開発事項となる。1. 高強度ビームを使いこなすための検出器開発、および2. 散乱陽子検出器の開発である。我々が実験をする予定のJ-PARCの遅い取り出しのビームの時間構造が非常に悪く、時間的にビーム強度の疎密が激しくなっており、ビーム強度が瞬間的に密なときには平均的なビーム強度の10倍のビームが出てしまうという問題があり、ビーム強度が0.5MHzに制限されていた。そのため、平均的に10MHzのビームを使用するためには、瞬間的に100MHzの強度に達するということになる。このため、1.の高強度ビームのための検出器開発に重きを置いて開発をおこなった。結果的にBFTをインストールすることによって現在でも平均的に6MHzのビームを使用することが出来る所まで飛躍的に向上することが出来た。一方で、2.の散乱陽子検出器の方が少し遅れてしまい、プロトタイプのデザインおよび製作にとどまってしまった。
高強度ビーム用のビームラインファイバー検出器の開発に関しては既に完成させることが出来たので、今後は散乱陽子検出器の開発を中心的に行う。製作した散乱陽子検出器のプロトタイプを用いて、まず陽子陽子散乱実験を行い、その性能評価を行う。ここで、検出効率や散乱事象の同定能力および粒子識別能力等を評価し、散乱陽子システムとしての性能評価を行い、実機製作に向けての改善点等を洗い出すことを行う。また実機の散乱陽子検出器の開発に向けて、1. 円筒形ファイバー検出器の実機のデザインおよび製作、2. 実機で使用する24本すべてのBGOカロリメーターのエネルギー分解能等の測定、3. 円筒形ファイバー検出器で用いる約5000チャンネルのMPPCを読み出すために、読み出しボードの集積化を進める ことを今後の検出器開発の中心に据えて行っていく。
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Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A
巻: 695 ページ: 206-209
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Proceeding os Science
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