研究課題/領域番号 |
23684012
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
清水 格 東北大学, ニュートリノ科学研究センター, 助教 (10400227)
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キーワード | ニュートリノ / 素粒子実験 / 実験核物理 |
研究概要 |
KamLAND-Zen実験では、同位体濃縮キセノン(136Xe)を液体シンチレータに溶かし込み、ニュートリノ放出を伴わない二重ベータ崩壊を探索している。今年度発表した最初の結果では、ニュートリノの有効質量に対して0.3-0.6eVの上限値を得てトップクラスの感度を達成したが、今後さらに液体シンチレータの不純物を除去することで縮退型質量(60meV以上)までの感度が見込まれる。本研究では、検出器を改良してエネルギー分解能を向上させることで、逆階層型質量(20meV以上)の検証を目標とする。 エネルギー分解能を高めるためには、シンチレーション光の集光量を増加させる必要がある。そこで、Winstone-Cone(放物線型回転体)型の高集光ミラーを光電子増倍管の前面に取り付けることで、検出器全体で2倍の集光効率の増加を目指す。光電子増倍管はパラフィンオイル中で用いるため、液中での反射率測定によるミラーの選定を行った。その結果、PETフィルムをベースにアルミ蒸着(厚み40nm)した反射材において85%程度の目標値に近い反射率が得られることが分かった。空気中との比較により液中での2%の反射率減少、高入射角での反射率増加などが確認されたが、集光率に対する影響は十分に小さい。この反射率をインプットとした光シミュレーションでは検出器全体での集光率は1.5~1.7倍となったが、高入射角での反射率増加を考慮した場合では、若干の増加が期待される。逆階層型質量の検証では、5年間の継続的な観測が必要であるため、ミラーの長期安定性の確認も重要である。反射率については、50℃での加速試験(約8倍速度)において8ヶ月相当の安定性が保証された。また、PETやアルミによるパラフィンオイルに対する影響についても考慮する必要があるが、吸光光度計による測定で光透過率が減少することは無いことが分かった。これらの結果から、PETベースのアルミ反射材は有力な集光ミラーの候補であると評価できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である逆階層型質量の検証のため、エネルギー分解能の改善を目標としていたが、第一段階である高集光ミラーの開発・設計をほぼ達成した。順調に進んだ理由として、空気中において実績のあるアルミ蒸着した反射材、かつベースとしてパラフィンオイルに対する体液性の高い材料を選んだことが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、高集光ミラーの試作品を制作して機械的性能を確認すると共に、シミュレーションで得られた集光率の増加を実測によって確認する。また同時に、集光量をさらに1.5倍高めることを目標として高発光量液体シンチレータの開発を行う。もし、液体シンチレータが予定通りの性能を達成しない場合は、不足分を集光率の増加で補償できるか検討する。さらなる高反射率のためには、アルミの上に誘電体を蒸着した増反射ミラーなどが考えられるが一般に高価な材料であり、製作のコストを踏まえて最適な設計を検討する必要がある。
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