研究課題/領域番号 |
23684012
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
清水 格 東北大学, ニュートリノ科学研究センター, 助教 (10400227)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 素粒子実験 / 実験核物理 |
研究概要 |
KamLAND-Zen実験は、同位体濃縮したキセノンを液体シンチレータ中に溶かし込むことで、高感度な二重ベータ崩壊探索を行うことを目的としている。今年度発表した結果では、ニュートリノの有効質量に対して160-330meVの上限値を得て既に世界最高感度を達成し、今後さらに液体シンチレータの不純物を除去することで縮退型質量(60meV以上)までの感度が見込まれる。本研究よって検出器のエネルギー分解能の改善が実現した場合、20meVまでの感度を達成することができるため、ニュートリノのマヨラナ性を発見するか、もしくはニュートリノの質量階層を決定するかのどちらか確実な成果が得られることになる。 現在の検出器のエネルギー分解能を高めるため、本年度は集光率増加のための集光ミラーの開発と発光量増加のための液体シンチレータの開発を並行して進めた。集光ミラーの開発では、前年度のデザインを基にした試作品を製作した。PETにアルミを真空蒸着した平板のサンプル(保護膜なし)は、期待通り広い波長域において90%以上の反射率が得られた。また、実物大の曲面を持つ集光ミラーにおいても同等の性能が得られるか試験するため、厚みの異なるPETの成形品を30個試作した。液体シンチレータの開発は、発光量と透過率が高いことで知られているリニアアルキルベンゼン(LAB)を中心に進めた。アルキル化の手法が異なる2つの製法(HF法,Detal法)で生成されたLABに対して発光材を溶かしこみ、液体シンチレータを作成した。発光量はプソイドクメンベースの液体シンチレータの0.8倍、400nmにおける光の減衰長は10m以上となった。このままでも大容量の液体シンチレータ検出器に用いることができる性能が得られているが、さらに不純物の化学吸着・蒸留除去などの純化を行い、発光量と透過率に対して一定の効果が得られることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である逆階層型質量の検証のため、エネルギー分解能の改善を目標としていたが、集光ミラー試作品の性能評価に向けたPET成型と液体シンチレータの候補選定が完了した。順調に進展した理由として、現在の検出器で用いられている液体シンチレータの性能評価方法・純化方法の経験を今回の開発に応用できたことが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度に製作した集光ミラーのPET成形品へのアルミ蒸着を行い、集光率を実測することで最適な蒸着条件を決定する。また、現在の液体シンチレータの透過率をさらに精密に評価するため、光の減衰率を数mのスケールでも測定可能な装置を開発する。その際、光源として現在反射率の評価に用いているXeランプと分光器をそのまま利用できる。透過率が目標値に達しない場合は、液体シンチレータの純化が必要である。LAB純化には、化学吸着・蒸留除去が有力であることが分かったが、ガスクロマトグラフィーと質量分析を組み合わせて光減衰の原因物質を特定することで、化学工学的に効果が高いと期待される純化手法を模索する予定である。
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