KamLAND-Zen実験では、同位体濃縮キセノン(136Xe)を液体シンチレータに溶かし込み、ニュートリノ放出を伴わない二重ベータ崩壊の探索において世界最高の感度を達成した。昨年度は純化作業によって液体シンチレータの放射性不純物を10分の1以下に低減することに成功した。その一方で、低エネルギーに分布するニュートリノ放出を伴う二重ベータ崩壊によるバックグラウンドが主要なバックグラウンドとなりつつあり、エネルギー分解能の向上が望まれる。本研究では、検出器を改良してエネルギー分解能を向上させることで、逆階層型質量(20 meV以上)の検証を目標とする。 検出器のエネルギー分解能改善を実現するため、高発光量液体シンチレータの開発と集光ミラーの開発を行った。液体シンチレータの開発では、リニアアルキルベンゼンを溶媒とした液体シンチレータの光学性能を高めるため新たに蒸留法と吸着法を組み合わせた不純物除去を行い、現行の液体シンチレータ以上の透過率が達成できることを確認した。両者とも大容量の溶媒を精製するのに工業的に実用化されている技術であり、現在の小型装置のスケールアップが比較的容易であると考えられる。また、波形弁別による粒子識別性能の評価を行い、バックグラウンドの削減に貢献することを確認した。集光ミラーの開発では、前年度に製作したWinstone-Cone型高集光ミラーを変形させた場合の集光性能への影響を評価した。実際の検出器では0度~40度までの範囲の集光が必要であるが、全ての角度から到来するシンチレーション光に対する集光量の増加率は1.7~1.9倍程度を維持しており、変形の影響は小さいことを実測によって確認した。さらに、液体シンチレータ検出器の内部において長期使用が可能であることを示すために、耐液試験による長期安定性、ミラー表面における化学発光及び乱反射の影響などの評価を行い、いずれも使用上問題とならないことを確認した。
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