研究課題/領域番号 |
23684018
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
下志万 貴博 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70581578)
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キーワード | 時間分解電子線回折 / 構造相転移 / レーザー |
研究概要 |
本研究では新たにフェムト秒時間分解電子線回折装置を建設した。本装置は大きく2つの構成要素に分けられる。 1.測定系:従来の反射型高速電子線回折(RHEED)の実験配置を念頭に、パルスレーザー照射に対応したフォトカソード型電子銃及び磁気レンズの設計を専門の業者と連携して行った。試料冷却及び正確な位置/角度制御のために超高真空対応の5軸クライオスタットを導入し、超高真空かつ低温環境下における実験を可能にした。時間分解能を悪化させる空間電荷効果を防ぐために電子線の飛行時間を短く抑える必要がある。そのために磁気レンズから試料までの距離を極力短く設計した真空チャンバーを導入した。 2.光学系:レーザー出力の安定化のために高精度温度制御システムを導入した。非線形光学結晶を用いて得た近赤外レーザーの4倍波をフォトカソード型電子銃に導入した。 このように時間分解電子線回折装置を建設し、初めに熱電子銃を用いた電子線のパス調整を行った。磁気レンズの性能を確かめ、通常のRHEEDが行えることを確認した後に、フォトカソード型電子銃に交換した。次年度にかけてフェムト秒オーダーの時間分解能が得られるようさらに調整を行う予定である。また、本装置の建設と並行して、本研究の測定対象の一つである鉄系超伝導体に関する予備実験を行った。BaFe2(As,P)2に対して角度分解光電子分光を行い超伝導及び常伝導電子状態の観測に成功した。(Science誌及びSolid State Communications誌に掲載)特に構造相転移温度近傍において軌道秩序が生ずることを見出した。(論文準備中)次年度に行う時間分解電子線回折実験では、このような電子系の秩序化と構造相転移の因果関係に関する知見を得ることを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
時間分解電子線回折装置の設計及び建設に成功したが、当初の予定であったフェムト秒電子パルスを得る程には未だ調整しきれていない。レーザー出力を安定化させる高精度温度制御システムの導入が必要と判明し、導入までに時間を要したことが原因に挙げられる。次年度は光学系の調整、ディテクターシステムの改良等を行い、いち早くフェムト秒オーダーの時間分解能を達成することを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
光学系の調整、ディテクターシステムの改良等を行い、いち早くフェムト秒オーダーの時間分解能を達成することを目指す。特にパルスあたりの電子数を減らして空間電荷効果の軽減を試みる。このためにはより高感度なマイクロチャンネルプレート及びCCDカメラが必要になると考えられる。フェムト秒オーダーの時間分解能を達成した後に、鉄系超伝導体やマグネタイトといった強相関電子系における構造相転移の初期過程の観測を行う。電子系における秩序状態と構造相転移の初期過程における因果関係について知見を得ることを目指し、得られた結果を論文にまとめて発表する。
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