研究課題
若手研究(A)
クロロフィル(Chl)cは、海洋性光合成生物において光合成アンテナタンパク(FCP)に結合して、太陽光エネルギーを吸収して反応サイトへ励起エネルギーを伝達する「集光作用」を担う天然ポルフィリン色素である。一方、色素増感太陽電池において酸化チタンへの電子注入を行い、約5%の高い光電変換効率を示す。しかしながら、これらの光応答の鍵となるChlcの光励起状態については解明されていない。本研究の目的は、オキナワモズク盤状体を用い、向流クロマトグラフィーを利用することにより、微量成分であるChl cの大量調製を実現し、時間分解分光によりChl cの光励起状態を解明する事である。本年度は、高速向流クロマトグラフィー(HSCCC)を導入し、オキナワモズク盤状体よりChl cを大量に調製し、かつChl c1とChl c2を分離する条件を検索する事を目標とした。オキナワモズク盤状体からの大量抽出大量精製を試みた所、Chl c類に極めて類似した物性を持つ不純物が大量に生成し、Chl oの単離が極めて困難な状況となった。原因追及の試みの結果、この不純物は、オキナワモズクの色素の主成分の一つであるChl aの分解物であり、その生成条件が、原料のオキナワモズク盤状体を冷凍保存する際の温度変化あるいは凍結乾燥の過程であることを突き止めた。この点を改良して現在は分解物のない原料が得られるようになった。一方、得られたChl cについて、有機溶媒中における時間分解分光スペクトルの取得に成功した。得られたシグナルは極めて複雑であったため、この解析を行うためには、基本的な物性が必要であると判断した。有機酸の基本的物性であるR-COO-とR-COOHの平衡定数(pKa)を調査するために、溶媒のpHを変化させて光応答を検討したところ、複数の光応答に有為な変化が見られ、pKaを決定する事ができた。この条件を詳細に検討する事により、Chl cのR-COO-とR-COOHの平衡を制御して時間分解分光スペクトルを測定する実験条件を割り出す事が可能と考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本年度の実施計画であったChl cの大量調製系の確立は、不純物の混入によって遅れ、次年度へ持ち越しとなった。しかしながら、不純物混入の原因がおよそ解明できた事により、達成の確率が上がったと考えた。本研究目的であるChl cの励起状態の解明について、Chl cのフェムト秒時間分解吸収分光を行い、複雑なスペクトル挙動を示す事が分かった。これを解釈するためのChl cの基本的物性についての知見を得ることができつつあるので、「研究の目的」に向けておおむね順調に進展しているといえる。
培養から精製までを一貫して行うシステムを構築する事により、Chl cの大量調製を実現する。そのため、人工気象器を導入して培養をスタートする。Chl cの時間分解分光については、まずChl cの有機酵としての基本的物性をふまえた溶媒の選択を行うこと、次に、酸化還元電位を制御した吸収スペクトルの測定により、反応中間体となるカチオン、アニオン状態を解明することの2点に焦点を絞ることにより、励起状態の完全解明を達成する。
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http://www.ocarina.osaka-cu.ac.jp/profile/ritsuko_fujii.html