前年度までに、光誘導吸収測定を用いてバルクヘテロ接合型太陽電池におけるキャリア寿命とキャリア移動度を評価する手法を構築した。本手法では太陽電池に任意の負荷抵抗を接続して実験できることから、種々の動作点でキャリア輸送過程を調べることができる。今年度は、代表的な有機半導体であるP3HTとPCBMからなる薄膜太陽電池について、熱処理がホール輸送特性に及ぼす影響について明らかにした。さらにローバンドギャップポリマーの一種であるPTB7を用い、変換効率7%程度の太陽電池を試作し、そのキャリア輸送特性を評価した。その結果、PTB7は結晶性ポリマーではないにも関わらず、二種類のホールが観測され(結晶性ポリマーであるP3HTではアモルファス領域のホールと結晶化した領域のホールと解釈されている)、そのうち一方のみが短絡条件において素子の外部に取り出されていることが分かった。この取り出されるのに要する時間からホール移動度を見積もったところ、P3HTよりもだいぶ低い値であった。PTB7はP3HT以上に多くの太陽光を吸収するので、その分キャリア密度が高くなり、二分子再結合によるロスも加速されると考えられるが、評価してみると二分子再結合係数が極めて小さく、結果として高い取り出し効率が実現されていることが分かった。なお、非結晶性高分子であるPTB7では熱処理を行ってもキャリア輸送特性に変化は見られなかった。このことからP3HTなどで見られる熱処理によるキャリア輸送特性の向上は、主に結晶化が促進されることによると結論付けられる。
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