研究課題/領域番号 |
23684022
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
小林 航 筑波大学, 数理物質系, 助教 (70434313)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ナトリウムイオン電池 / 薄膜 / 超伝導 / ナノエレクトロニクス / 強相関電子 / 高速充放電 |
研究概要 |
本研究の目的は,リチウムイオンポリマー電池素子構造を用いて電気化学的にリチウムイオンを強相関電子材料に挿入-脱離し,電圧でドーピングレベルを制御することにあります。この構造を用いることで、(1)ケミカルドーピングでは到達できないドーピングレベルへの拡張、(2)バルクドーピングによる高温超伝導,強磁性等の物性制御が可能となるため、新しい原理による電圧駆動強相関デバイスの創製が期待されます。また環境エネルギー問題に物性物理の視点から切り込むために、(3)二次電池に有用なインターカレーション化合物の構造物性を放射光を用いて調査し、ホスト-ゲスト系の相互作用に関する知見を得ることを目的とします。 昨年度の成果を以下に示します。(1)層状化合物である、高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8 (Bi2212)に電気化学的にリチウムを挿入することで、超伝導特性の制御を行いました。リチウムドープ量x=0の試料では超伝導相転移温度は75 Kでしたが、リチウムを0.8程度ドーピングすることで転移温度を90 Kまで増大させることに成功しました。また放射光XRD,x線吸収XAFSによりリチウムの挿入にともないc軸長が顕著に増大し、銅の価数が変化したことがわかりました。 さらに(2)層状岩塩型酸化物NaxCoO2薄膜をPLD法により作成し、充放電特性、インピーダンス計測を行いました。粒径100nm程度のNaxCoO2がおよそ200nmの厚さで堆積した膜を得ることに成功しました。作成した膜は200C(18秒で高速充放電が可能)での充放電が可能で、かつ1000サイクル後の容量が84.4%保持される高性能電池材料となることがわかりました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,リチウムイオンポリマー電池素子構造を用いて電気化学的にリチウムイオンを強相関電子材料に挿入-脱離し,電圧でドーピングレベルを制御することにあります。電気化学的にドーピング量を精密に制御するためには、リチウムイオン電池で用いられている技術を適用する必要があります。平成23年度には層状構造を有する強相関電子材料であるLixCoO2をアルミニウム箔状に導電助剤であるカーボンとポリマーバインダーを用い、LiClO4/EC+DEC電解液中で充放電し、精密にリチウム量xを制御する技術を開発しました。同時に薄膜を作成するためにPLDチャンバーを、さらにイオンダイナミクスを調査するためにインピーダンスアナライザを導入しました。平成24年度はこれを応用し、高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8にLiイオンを電気化学的に脱離挿入することに成功しました。放射光X線、X線吸収を用いて格子定数の増大と銅イオンの価数の変化からリチウムイオンの挿入が確認されました。またLiイオンがドープされると超伝導相手に温度が75 Kから90 Kまで上昇することがわかりました。電気化学的に電圧を用いてドーピングレベルを制御しBi2Sr2CaCu2O8の超伝導特性をコントロールしたと言えます。この意味において当初の計画は十分達成しつつあります。また強相関材料である層状化合物NaxCoO2薄膜をPLD法で作成することに成功しました。XRD, SEMにより厚さ200nmの薄膜が作成されたことがわかりました。この薄膜は200Cという高レートでNaイオンの脱離挿入が生じ、また1000回以上繰り返しNaイオンの脱離挿入が行えるため、ナトリウムイオン電池の正極材料となることがわかりました。電圧で高速にNaxCoO2のxを0.5から0.9まで制御できるため、今後この系のさまざまな物性が電圧で制御されると考えられます。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は当初の計画通りに推進しています。平成25年度にはラミネート電池を作成し、リチウムもしくはナトリウムイオンの脱離挿入時にその場で結晶構造や遷移元素の価数を計測できるin situ XRD, XAFS計測を予定しています。ラミネート電池構造を用いることで、構造の変化を調べられるだけでなく、電流を印加しアルカリイオンの脱離挿入を行いながら磁化の変化を検出することもできます。 また本物質研究の知見はそのままデバイス(二次電池)に適用することができます。二次電池はアルカリイオンの脱離挿入を利用するものであり、本研究の対象物質が含まれます。本研究の趣旨は電圧によって物性を制御することでありますが、電極材料の研究は電圧によって電池の電位、イオンの拡散速度等の物性パラメータを制御すると言えるからです。平成25年度以降は、NaxMO2 (M:3d線金属元素)構造物性を放射光を用いて調査し、ホスト(M)-ゲスト(Na)系の相互作用に関する知見を得ることも目的として加えます。結晶構造や電位、拡散係数がナトリウムイオン量xに従ってどのように変化するか調べ、ナトリウムイオン電池の電位や充放電レートの向上に有用な研究を推進します。また高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8にNaイオンをインターカレートし、LiドーピングしたBi2Sr2CaCu2O8との物性の比較を行い、イオン半径の違いによりどのように物性が変化するか調査します。
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