●単結晶EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2の13C-NMR 本計画は、単結晶試料に対する面平行と面垂直印加磁場NMRの結果の差異を調べることにより、カイラルエッジ軌道電流の有無を結論付けることを目標としていた。この目的のため、4He冷凍機、3He-4He希釈冷凍機下で、EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2の面平行・面垂直印加磁場13C-NMR測定を行い、それぞれに対しスペクトル、スピン-格子緩和率を得ることに成功した。その結果、これまで単結晶集合体に対して観測されていた1K近辺での緩和率異常は、面平行・面垂直印加磁場の両方に対しても観測されることを見出した。ここでの眼目は、面平行・面垂直印加磁場の両者で異常温度の変化が見られるかどうかであるが、両測定で異常温度は1Kでほぼ一致することが見いだされた。従って、自発カイラルエッジ電流が実現しているシナリオは否定されることなる。ただし、異常温度は両者で一致するが、緩和率の振る舞いそのものは面平行・面垂直印加磁場で明確な違いが見受けられた。このことは自発カイラルエッジ電流そのものはないものの、面垂直に磁場をかけたときのみスピンダイナミクスが増強されていることを意味しており、カイラルエッジ電流と関連するMott絶縁体3次摂動項が働いていることを示唆するものである。 ●(Me4Sb)x(EtMe3Sb)1-x[Pd(dmit)2]2混晶系の13C-NMR 上記混晶塩に対し13C-NMR測定を行い、次のことを見出した。x=0では16Kで磁気秩序を持つが、xの増大とともに急激に転移温度が低下することを明らかとした。x=0.64近辺において、磁気秩序が完全に消失する量子臨界点があることを見出した。これよりxが小さい領域においてはスピン液体状態が基底状態として実現しており、スピン液体が相として広い領域で成立していることを意味する。
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