研究課題/領域番号 |
23684033
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
堀越 宗一 東京大学, 大学院・工学系研究科, 助教 (00581787)
|
キーワード | 量子エレクトロニクス / レーザー冷却 / ボース凝縮 / フェルミ縮退 / 超流動 / BCS-BECクロスオーバー / 熱力学 / 状態方程式 |
研究概要 |
本研究の目的は、相互作用している二成分フェルミ粒子系が示すs波超流動の物性を、冷却フェルミ原子気体を用いて明らかにする事である。特に、フェッシュバッハ共鳴効果により粒子間の相互作用が十分大きい強相関フェルミ原子気体系においては、超流動状態になっていない正常成分までも流体的振る舞いを示す。よって冷却フェルミ原子気体で、ランダウの二流体モデルに従う物理現象の観測が期待される。しかしこれまでヘリウム4の実験で見られるような、超流動による超熱輸送、第二音波、噴水効果等の、二流体に特徴的に現れる現象は観測されていない。さらには、超流動密度の温度依存性等も未知の状況である。冷却原子は希薄で不純物が無いため、二体衝突のみで多体系が構築されている。粒子間の相互作用も自由自在に制御可能なため、理想的な多体シミュレータとして働く。このような理想的な系で相互作用しているフェルミ粒子系やその超流動の物理を理解する事は、より複雑なフェルミ多体系である原子核や電子系の理解を進める上で非常に大きな意義がある。 昨年度は本研究を遂行するにあたり極低温フェルミ原子気体を実現する為、レーザー冷却装置の立ち上げを行った。先の東日本大震災の影響もあり、従来の装置よりも電力消費が少なくなるよう工夫を凝らし、装置の設計を行った。本研究に用いる原子はリチウム原子であり、従来の方法ではオーブンで蒸発したリチウム原子をゼーマン減速法を用いて冷却するが、この方法は大きな磁場を必要とし、それに伴う電力消費が非常に大きい。よって本研究ではゼーマン減速法を用いず、オーブン直上で二次元磁気光学トラップ(2DMOT)を行い、そこで冷やされた原子のみをレーザー光で三次元磁気光学トラップ(3DMOT)に輸送する手法を採用した。2DMOTに磁場が必要になるが、永久磁石を用いることにより、消費電力ゼロを実現した。この手法により、3DMOT中に6Liを10^8個捕獲する事に成功し、従来の方法と同程度のパフォーマンスを得た。 また我々は昨年度、BCS-BECクロスオーバー全域での状態方程式や、熱力学の決定方法を提案した。我々はこれまでの先行研究で、散乱長が発散しているユニタリー極限において熱力学の決定を行ってきたが、その手法はユニタリー極限限定の方法を用いていたためにそれ以外の相互作用領域への拡張は難しい状況であった。今回我々は任意の相互作用領域で冷却原子気体の化学ポテンシャルを実験的に決定できる画期的な方法を発見し、その妥当性を示した。温度と相互作用で決定される普遍的な熱力学の実験的決定は、BCS-BECクロスオーバーを記述する理論の試金石となり、相互作用している多体粒子系の基本的枠組みを確立できる大きな意義がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時に在籍していた共同研究者が震災影響により帰国し人的資源低下のため
|
今後の研究の推進方策 |
研究目的は変更なく行う。今年度は強く相互作用している6Liの温度評価を可能にするため、7Liとの同時レーザー冷却を目指す。その後光トラップへ移行し蒸発冷却を経て、二成分フェルミ粒子系の超流動状態を実現する。今年度後半は、本研究課題である二流体現象を観測するため、研究計画調書で提案している粒子の流量の調節可能な障壁ポテンシャルの技術開発を行う。具体的にはレーザー光で行うため、その光源開発と、定在波の時間的コントロールを行うための光学素子の開発である。目標は今年度中にこの障壁ポテンシャルを光トラップ内に導入し、粒子や熱量の調整のデモンストレーションを行う。来年度(最終年度)は粘性率、熱伝導率の定量測定を行う。さらに相転移温度以下において、超流動と常流動の二流体が示す現象に取り組む。特に第二音波、噴水効果の観測を世界に先駆けて実現する。二流体現象がより超流動密度を見積もる。
|