研究課題
本研究では光の量子状態を保持したまま波長変換を行う量子波長変換を実現し、これを利用した量子情報技術の開拓を行う。量子情報処理の実現には量子光通信や物質系での量子状態制御や量子メモリを駆使する必要がある。しかし、これまで物質系からの発光を利用した非古典光の発生は可視光領域が多く、赤外領域にある光通信波長域とは大きなギャップがあった。この量子波長変換を用いることで、このギャップを埋め物質系からの量子状態を光通信を用いてより長距離通信が可能となる。また、量子波長変換を組み合わせることで波長自由度を利用した量子操作を実現し、新たな量子情報技術を開拓する。昨年度は、導波路型PPLN を用い量子波長変換の基本動作確認の実験を実施し、780 nmの弱いCWレーザー光を1600nmの励起光を用いた差周波発生により通信波長帯1522 nmに70%近い効率で変換することができた。また、光パラメトリック変換を用いて780nmの偏光エンタングルメント光子対を発生させ、この一方を通信波長帯の1522 nm光子へ変換する実験を行い忠実度0.75を得た(Nature Communications誌に掲載)。本年度は更に高精度化を図るために、忠実度の低下原因であるラマン散乱光の励起光強度依存性および変換効率の励起光強度依存性などを詳細に検討するとともに、光子検出器の性能向上を図ることで、忠実度0.93の非常に高忠実の波長変換を達成した。検出器の有限のジッターのために現状では更なる高忠実度化は難しいが、原理的には1に近い忠実度を得ることも可能であることが分かった。これにより波長自由度を用いた量子情報実験の可能性を見出すことができた。
1: 当初の計画以上に進展している
当初予定していた以上に高い忠実度での量子波長変換に成功した。更なる高度化に向けては検出器の向上が必要であるが、現在検討中である。また、これを利用した量子情報実験の準備も順調に進んでおり、当初の予定通りに進展している。
本年度までに量子波長変換の高忠実度化を実現し、波長自由度での量子情報処理の可能性が大きく開けた。今後はこれを利用した波長自由度の量子情報処理の基礎実験を行う。既にそのための光学系の準備を始めており、問題なく遂行できる。これに加えて昨年度より進めている挑戦的テーマである。原子からの光を通信波長帯に変換する実験系の立ち上げを急ぎ行う。
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Phys. Rev. A
巻: 87 ページ: 010301(R)-1-4
10.1103/PhysRevA.87.010301