細胞内部に貪食させたコロイド粒子をプローブとしてactive/passive MR計測を行った。前年度までに準備した細胞計測用の計測システムを用いて、ガラスボトムディッシュ上で培養された健常な細胞の観測を行うことができた。(従来は狭小な試料セル中に細胞を封入する必要があったために細胞の状態が短時間のうちに劣化する問題があった。)蛍光微粒子(粒径0.6μm)をプローブとして、他のオルガネラと区別して計測を行うことができた。また、細胞骨格やモータータンパク質、およびその他の構造タンパク質との特異的な結合を避けるために、コロイド粒子の表面はポリエチレングリコール鎖で修飾した。 本年度はさらに、細胞内部環境のモデルシステムとしてのアクチン・ミオシンゲル、および細胞内部の固形成分を抽出した後生理活性を持つ低分子のみ除去した試料の力学応答、および揺らぎを計測した。生理活性を持ちシステムにおいて観測された揺らぎの統計分布は、べき乗則に従う広い裾野を持つ明らかに非ガウス的な形状を示した。Oxford大学理論グループとの共同研究により観測された分布関数をLEVY統計理論を駆使して解析した。その結果、観測された非平衡揺らぎはモータータンパク質等による力生成の動力学を反映する複数のLEVY分布の重ね合わせとして理解できることが明らかになった。LEVY分布は力生成体の特性や強度に分散があっても不変な安定分布としての性質を持つ。したがって、得られた結果は異なる力生成体が同時に働く細胞内部環境においても適用できる可能性があり、得られた成果を現在投稿準備中である。
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