研究概要 |
地震時での断層における摩擦滑りは温度上昇を引き起こし,常温では起きえない化学反応を促進,これによって吸熱や化学的反応条件の変化が引き起こされ,そもそもの温度上昇に影響を与える,また,反応によって外部に放出される水素元素や水分子,二酸化炭素ガスは,化学的環境条件の変化やthermal pressurizationへのアシスト効果を引き起こし,断層の摩擦滑り挙動そのものへも影響を与える.このように,地震時に断層で生じる様々なプロセス・機構が互いに影響を及ぼし合い,滑り挙動に複雑に影響を与えていることが明らかになってきた.しかし,滑りに伴う粉砕・摩耗が,このような一連のプロセスに与える影響は未だ十分に精査されていない.そこで本研究では,コサイスミック化学反応におけるメカノケミカルな効果を検証するために,高速摩擦試験機を用いた粘土鉱物(イライト)の勢断実験と,実験前後試料の熱分析,X線回折分析,全反射型赤外分光分析,粒度分析を実施した.その結果,試料に与えるエネルギー密度(剪断応力x 滑り距離/slip zoneの厚さ)が大きいほど,イライトの非晶質化が進行し,さらにこれと平行して脱OH反応の活性化エネルギーが減少することが明らかになった.活性化エネルギーの低下は,反応がより低温から進行し易くなることと同義である.そのため,粘土鉱物に滑りが生じた場合,滑りに伴う非晶質化が進行,このメカノケミカルな効果によって,より低温にて脱OH反応が進行,外部に水を放出し,thermal pressurizationのアシストを引き起こすという一連のプロセスが発生しうることを意味する.今回の実例はイライトだけであるが,地震時にはメカノケミカルな効果が各種の化学反応に強く影響を与えうることが予想される.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題では,粘土鉱物の脱OH反応で放出される水に着目し,震源断層の試料における反応の痕跡の検出と熱分析による反応速度パラメータの決定,断層滑り挙動の数値解析等を通して,粘土鉱物の脱OH反応による水が地震時の断層滑り挙動に与える影響の解明を目的としていたが,実際の研究の進行によって,粉砕に伴うメカノケミカル効果の影響が大きいことが明らかになってきた.そのため,当初の期待・目的以上の進捗状況と言える.
|