本研究では,地震時に断層で生じるコサイスミック化学反応におけるメカノケミカルな効果を検証するために,昨年度に高速摩擦試験機を用いた粘土鉱物(イライト,IMt-2標準試料から水ひ作業によって分離)の剪断実験と,実験前後試料の熱分析,X 線回折分析,全反射型赤外分光分析,粒度分析を実施した.そして,実験後の試料において,同時熱重量-示差走査熱量測定装置を用いて,ダメージを受けたイライトの脱OH反応における活性化エネルギーおよびエンタルピーの定量的な評価を実施した.その結果,ダメージを与えていない出発状態では,142.3 kJ mol-1であるが,与える摩擦のダメージにより97.0 kJ mol-1まで減少した.これは,その反応がより低温で生じうることを意味する. そこで,本年度は,摩擦発熱と熱伝導および化学反応速度式を連立させた数値解析を実施し,この活性化エネルギーの変化が地震時の断層滑り挙動に与える影響の定量的な評価を実施した.その結果,高いダメージが生じうる条件では,イライトの脱水反応(脱OH反応)が約200℃程度から生じ始め,外部に水分子を放出,断層内の間隙水圧を上昇させ,断層に作用する剪断応力が劇的に減少しうることが明らかになった. 以上の成果は,粘土鉱物に富む断層(例えばプレート沈み込み境界断層)の滑り挙動に大きな影響を与えていると考えられる.
|