研究課題/領域番号 |
23684042
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡本 敦 東北大学, 環境科学研究科, 准教授 (40422092)
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キーワード | 蛇紋岩化作用 / 水熱実験 / かんらん石 / 岩石-水相互作用 / 反応速度 / 反応に起因する破壊 / 熱水変質 / 海洋リソスフェア |
研究概要 |
本年度は,かんらん石-水系、斜方輝石-水系の粉末を用いた水熱反応実験を行い,蛇紋岩化作用の最も基本的な反応メカニズムについて調べた.バッチ式の反応装置を用いて,温度は200℃, 250℃、300℃で、飽和蒸気圧下で最大で1008時間の実験を行った.本実験の特徴としては,実験後の固体試料から加水反応の進行度を熱重量測定で明らかにすると同時に、溶液組成を詳細に分析することによって,反応の時間発展を明らかにするという点にある.その結果,かんらん石―水系においては,はじめは蛇紋石+マグネタイトであるのに対して、蛇紋石+ブルース石+マグネタイトと反応生成物が変化することを明らかにした.また、この変化は溶液組成のシリカ濃度の減少と対応しており,閉鎖系であっても、蛇紋岩化反応は時間とともに変化することを明らかにした.また、かんらん石粒子と接する内側にブルース石ができて、外側に蛇紋石+マグネタイトができるという天然蛇紋岩化した岩石で観察されるメッシュ組織と同様なものが形成された.このことは、天然の蛇紋岩化作用も,フレッシュな水と接する反応の初期には蛇紋石のみが形成し,反応が進行してシリカ濃度が減少したことによりマグネタイトが形成する反応に変わることを示唆している.また、斜方輝石-水系の反応では,シリカ濃度がかんらん石―水系と比べて1-2桁大きくなることが分かった.このことは,斜方輝石とかんらん石のどちらも含む系ではシリカ濃度の大きな勾配ができることを示唆している.また、どちらの系においても,かんらん石、または斜方輝石が割れてその中を蛇紋石などの生成物によって充填されることが観察された.これは、外力がなくても反応とともに破壊が進行するプロセスが蛇紋岩化の進行に重要であることを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに、もっとも基本的な反応であるかんらん石+水 = 蛇紋石+ブルース石 + マグネタイトという反応の実験を行い,詳細な反応の時間発展を得ることができた.また、基本的な分析手法も確立した.とくに、量が少ない溶液のSi濃度をICP-MSではかることに成功し,また、熱重量測定によって蛇紋石とブルース石の量を別々に定量的に測定することに成功した.これらの分析は,定量的に反応のカイネティクスを評価するために不可欠のものであり,おおむね順調であると言える.ただし、反応の進行と空隙率の変化の関係や反応の進行と岩石の破壊といったことをより詳細に調べるためには,実験時間を短くする、すなわち反応速度を高めることが重要である.この方法について,次の研究計画で述べるようにpH変化によるものを考えている.このような反応を加速させることに成功すれば(例えば,1ヶ月の反応を1週間で進行させる),研究計画はよりスムーズに進行されると期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の実験により,もっとも反応が速かったかんらん石-水系においても, 1008時間の反応率が12%程度と非常に低いことが明らかになった.一方で、最近,印刷されたフランスのグループの論文ではpH13と非常にアルカリ性の溶液を使うと,同じ系の200℃において,反応率が一週間で80%以上になるという報告があった.ただし,反応速度のpH依存性についての系統的な研究はこれまでにない.反応と体積膨張-変形などの系統的な変化を効率よく観察するには,短期間に反応が大きく進行することが望ましい.これをふまえて,pHを変化させて反応速度を出すという実験を行い,pHによって反応速度とメカニズムがどのように変化するのかについて考察する.(実験は4-8月)その上で、粉末を用いた実験の反応メカニズムを見直し,かつ、より空隙率の低い焼結体を用いた実験の準備を進める(9-12月).また、最終的な反応と破壊を組み込んだモデルを構築するために離散要素法を用いたシミュレーションを考えている.この基本的なアルゴリズムを習得するとともに,既存の水圧破砕のシミュレーションをもとに,どのようなモデルが適当であるかを考察する(1-3月).
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