研究課題/領域番号 |
23684042
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡本 敦 東北大学, 環境科学研究科, 准教授 (40422092)
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研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2014-03-31
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キーワード | 蛇紋岩化作用 / 海洋リソスフェア / かんらん石 / 水熱実験 / 蛇紋石 / pH / 離散要素法 |
研究概要 |
本年度は,かんらん石-水の系で、溶液の初期pHを5.8-13.5まで変化させて実験を行いその反応速度と生成する蛇紋石形状の違いを明らかにした.温度は250℃, 300℃, 350 ℃、飽和蒸気圧である.表面観察とEDSの結果,主な生成物はどれも蛇紋石±ブルース石であった.初期のpHが5.8-10.6の低い領域と,pHが11.5-13.5の高い領域では反応物,溶液組成変化,反応速度が大きく異なることを明らかにした.pH5.8-10.8では250℃と300℃とともに実験後のpHはおよそ9.5程度と一定になり反応率は250℃で10-15%,35-45%とほぼ一定であった.一方で,pHが10を超えると反応率は線形に増大し、初期pH13.5では90%程度まで上昇するということが明らかになった.また、同時に低pHでは平板上のリザダイトであるのに対して,高pHでは針状の栗粗タイルに変化した.海洋底の熱水変質場ではメッシュ組織のところはリザダイトで、ベインはクリソタイルな場合がよく観察される.しかし,リザダイトとクリソタイルではどちらがより安定であるかはよくわかっていない.本実験の結果は,ベインの部分はpHの高い流体が外部から流れてきた可能性を示唆する.また、急激に反応速度が速くなるpH領域はシリカがSiO2,aqだけではなくて他の化学種としても存在できるところである.そのような形でシリカが存在していることが反応速度を高めることにきいているかもしれない.実験後のpHが9から13.5に変化すると蛇紋岩化の速度が5倍以上異なることが明らかになり,これは実験を効率よく進めるためにも大きな知見である. また、 離散要素法を用いた破壊と変形のシミュレーションについて,反応に伴う水の出入りと体積膨張率を変化させてシミュレーションの試行錯誤を始めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は当初の計画にはなかった反応速度のpH依存性について調べており、その部分で計画に若干の遅れがでている.しかし,実験の結果である蛇紋岩化作用の速度と生成物のpHによる変化は非常に興味深いものであり,蛇紋岩の種類から反応速度を推察するといった大きな研究成果につながりそうである.また、pHが10を超えると反応速度が急激に上昇するという傾向は今後の実験計画にとってよい傾向であり,より反応と破壊、物性変化についての実験を効率的に行えると確信している. 遅れている部分としては、焼結体の作成である.しかし,焼結体の作成はその後の明確な水熱実験のプランを練ってからそれにあったものを作成すべきであるために,少し時間がかかっていたが,次年度は速やかに取りかかる予定である. 破壊と反応のシミュレーションは,水圧破砕シミュレーションの専門家の協力を得て,現在そのモデルを構築中であり,非常に順調と言える.
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今後の研究の推進方策 |
1. かんらん石またはかんらん石/斜方輝石の焼結体を用いた水熱実験 蛇紋岩化反応進行の律速過程を知るために、かんらん石またはかんらん石+斜方輝石の焼結体を作成して、水熱実験を行う。空隙率を1 %, 10 %, 30 %と変化させた焼結体を作成する(4-7月)。その焼結体の水熱実験を行う(8-11月)。溶液組成を分析するとともに,取り出した固体試料は薄片を作成し,焼結体の内側に向かってどのように反応が進行しているかを明らかにする。空隙率が変化するにつれて,反応の律速過程が変化するかどうかを明らかにする.また、天然のかんらん岩、かんらん石単結晶を用いた実験も行い、反応の進行と破壊の様式を明らかにする。(12月) 2. 加水・体積膨張反応と破壊のシミュレーション (4-12月 実験と平行して進める) 蛇紋岩化反応は、水を吸収し、固体の体積が膨張する反応である。離散要素法を用いて、反応に伴う破壊の進展,反応-破壊とのフィードバックを明らかにする。とくに、体積が減少する脱水反応と比較して,亀裂パターンの違いを明らかにする。 3.海洋底蛇紋岩化作用の進行プロセスのモデル化 (1-3月) 水熱実験とシミュレーション、天然の産状を比較して,海洋底の蛇紋岩化作用がどのように広がっていくかを明らかにする。特に,水だけがくるときの加水反応とシリカが新たに加わったときの加水反応が起こるとき,シリカと水の供給源からの破壊と反応進行度をモデルすることを目指す.
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