研究目的はインフルエンザウィルスのチャネルタンパク質の開閉機構の解明のために、光によって、タンパク質の高次構造を1分子ごとに決定する新たな手法を開発することにある。NMRやX線によって得られた平均構造から、チャネルの開閉に伴い、その高次構造(特に四次構造)が大きく変化すると予想されている。しかし、このモデルだけでは、実際の系での機能を理解し、制御するのは難しい。それは、生体膜中では、開いた状態と閉じた状態にあるチャネルや、異なる種類のタンパク質が混在し、それぞれが組織立って機能を呈しているからである。このため、1種類のタンパク質を取りだして平均構造を観測するだけでは情報として不十分である。そこで、本課題では、混在系の中から目的のタンパク質を選択し、その高次構造を1分子観測できる方法論を確立する。 本課題は液体ヘリウム中での実験を指向している。しかし、昨年度から液体ヘリウムの供給が不安定であることと、昨年度に実施した実験で、1分子の構造解析を行うには精度が1桁足りないことが分かった。そこで、本年は、低温用の反射対物レンズの性能を限界まで向上させた新しいレンズの開発に取り組んだ。結果として、幸い液体ヘリウムの供給も始まったことから、低温での検査まで成功した。これは論文を準備中である。これらを含めて、本課題を遂行するための準備が整ったため、今年度が最終年度であるが本研究を継続していきたい。
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