研究課題/領域番号 |
23685004
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
前田 理 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60584836)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 量子化学計算 / 反応経路自動探索 / 生化学反応 / 酵素反応 / 遷移状態 |
研究概要 |
申請者らは、ADDF法およびAFIR法と呼ばれる二種類の反応経路自動探索法の開発を進めてきた。これらを用いることで、量子化学計算に基づく化学反応経路を、コンピュータで系統的に自動探索できる。これまで、10原子程度が関与する気相反応や、10-50原子程度が関与する有機反応へと応用してきた。本研究では、酵素反応を扱えるように拡張し、生体反応機構の解析および予測へと応用する。 平成24年度は、AFIR法とMicroiteration法とを結び付け、実際の化学反応へと応用することで、その有用性を調べた。具体的には、有機反応の一つであるアルドール反応について、ホルムアルデヒド分子、エチレン分子、および水1分子を量子化学計算で扱い、周囲の水分子299個を分子力場で考慮する1510原子系のONIOM計算において、本手法がどのようなパフォーマンスを示すかテストした。その結果、周囲の水分子を完全に無視した計算と同程度の計算コストで、水溶媒中におけるこれら3分子間の反応経路が自動探索され、アルドール反応を自動予測することができた。 さらに、本手法を実際の酵素反応であるイソペニシリンNシンターゼ(IPNS)によるイソペニシリンN合成機構の第一ステップへと応用した。IPNSは中心に鉄原子を有し、3種類のスピン状態を取り得る。そこで、スピン状態が変化する項間交差も議論するために、異なるスピンのポテンシャル面同士の交差領域内エネルギー極小点の自動探索も行えるようプログラムを拡張した。本計算では、反応中心65原子を量子化学計算で、周囲のタンパクを分子力場で扱うONIOM計算により、計5368原子系を考慮した。その結果、5重項状態における水素原子移動が最も起こりやすいことを自動予測できた。つまり、数千原子を含む酵素反応に対して、実行可能な計算コストで反応経路自動探索が実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究開発において解決すべき課題は3つ挙げられる。①AFIR法とMicroiteration法とを結び付けるプログラムの開発、②数千原子系の巨大なHessian行列を取り扱う技術の提案と実装、③異なる状態間のポテンシャル交差内エネルギー極小点の自動探索への拡張。これらの内、①は平成23年度に達成した。さらに、②および③も平成24年度には達成されたため、方法開発としての課題はすべて解決されている。 次のステップとして、これらが数千原子からなる酵素反応において実際に機能するかどうか確認する必要がある。平成24年度は、イソペニシリンNシンターゼ(IPNS)によるイソペニシリンN合成機構の第一ステップへと応用し、数千原子を含む酵素反応に対して実行可能な計算コストで反応経路自動探索が行えることを実証した。 今後、IPNSによるイソペニシリンN合成機構について、触媒サイクル全体を自動的に再現できるかどうかを検討する必要がある。また、他の酵素反応へと応用し、本手法の有用性をアピールしていくことが今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに申請者は、AFIR法をIsopenicillin N synthase (IPNS)による触媒機構の第一ステップへと応用し、法手法によって酵素反応機構の自動予測が可能であることを実証した。今後は、IPNSによる生合成サイクル一周を自動予測することを目指す。このとき、生合成サイクル一周は多段階からなるため、各ステップにおいて得られる多数の反応経路の中で最も起こりやすい経路(障壁が低い経路)を選び、起こりやすい経路を通って生成する中間体にAFIR法を次々に適用していく。このとき、簡便な反応速度解析と組み合わせることで、重要な経路の抽出も自動化していく予定である。 さらに、開発したプログラムを用いて、いくつかの酵素反応の機構解析を行う。例えば、タンパク質を無視したモデル計算と考慮した計算とで反応経路が異なるMethylmalonyl-CoA mutaseによるMethylmalonyl-CoAのSuccinyl-CoAへの転移反応機構の解析などを考えている。
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