研究課題
申請者は、非調和下方歪み追跡(ADDF)法および人工力誘起反応(AFIR)法と呼ばれる二種類の反応経路自動探索法の開発を進めてきた。これらを用いることで、量子化学計算に基づく化学反応経路を、コンピュータで系統的に自動探索できる。これまで、10原子程度が関与する気相反応や、10-50原子程度が関与する有機反応へと応用してきた。本研究では、酵素反応を扱えるように拡張し、生体反応機構の解析および予測へと応用する。平成23、24年度においてAFIR法とMicroiteration法とを結び付け、プログラムのテストを行った。アルドール反応について、ホルムアルデヒド分子、エチレン分子、および水1分子を量子化学計算で扱い周囲の水分子299個を分子力場で考慮する1510原子系のONIOM計算においてパフォーマンスをテストした。さらに、イソペニシリンNシンターゼ(IPNS)による生合成機構の第一ステップへと応用した。この計算では、反応中心65原子を量子化学計算で、周囲のタンパクを分子力場で扱うONIOM計算により、計5368原子系を考慮した。その結果、5重項状態での水素原子移動を示した過去の研究を再現できた。昨年度、AFIR法の分子内反応への適用に向けた技術開発を行った。以前は、反応中心を置換基や配位子などに分割し、それらの間に人工力を付加して反応経路を求めていたが、これだと結合様式が複雑な不安定中間体や分子のコンフォメーション変化を扱えない。そこで、結合パターンに基づいて分子を系統的に自動分割するアルゴリズム、および、人工力を加える前に構造に摂動を加えるアルゴリズムを導入し、これらの問題を解決した。これにより、IPNSの反応サイクル全体に対する応用が可能になった。
2: おおむね順調に進展している
申請当初予想していた課題は次の3つである。①AFIR法とMicroiteration法とを結び付けるプログラム開発、②数千原子系の巨大なHessian行列を取り扱う技術の提案と実装、③異なる状態間のポテンシャル交差内エネルギー極小点の自動探索への拡張。これらの内、①は平成23年度に解決し、②および③も平成24年度には達成された。これらの技術開発を経て、平成24年度にはプログラムが数千原子からなる酵素反応において実際に機能するかどうか確認する計算を行った。すなわち、IPNSによる生合成機構の第一ステップへと応用し、数千原子を含む酵素反応に対して実行可能な計算コストで反応経路自動探索が行えることを実証した。一方、第二ステップ以降で問題が生じた。これは、中間体によっては反応中心に対して妥当なフラグメントを定義できないことと、従来のAFIR法がコンフォメーション変化経路の探索に不向きであったことに起因する。これを解決するために、昨年度、単成分(SC-)AFIR法と呼ばれるアルゴリズムを導入した。これにより、第二ステップ以降への応用が可能となった。この問題は有機金属触媒などでも生じており、SC-AFIR法によって同様に解決された。これまで、想定された課題、実際の応用で生じた新たな課題をそれぞれ順調に解決し研究を推進できている。このため、本研究は「概ね順調に進展している」と言える。
平成24年度までに、AFIR法とMicroiteration法とを結び付けてIPNSによる触媒機構の第一ステップを自動解析できた。平成25年度には、第二ステップ以降へと応用するために新しいアルゴリズムであるSC-AFIR法を開発した。今後は、新しく開発したSC-AFIR法を用い、IPNSによる生合成サイクル一周を自動解析することを目指す。これにより、IPNSと同様の酵素反応について、SC-AFIR法を用いた系統的な反応機構解析が可能であることを実証する。また、学会等で成果について報告するとともに、SC-AFIR法による酵素反応機構解析のプロトコルを論文誌で公表する。SC-AFIR法は、様々な化学反応に応用可能であり、酵素反応および触媒反応への応用を通じてその有用性をアピールしていきたいと考えている。
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