申請者は、非調和下方歪み追跡法および人工力誘起反応(AFIR)法と呼ばれる二種類の反応経路自動探索法の開発を進めてきた。これらを用いることで、量子化学計算に基づく化学反応経路を、コンピュータで系統的に自動探索できる。これまで、10原子程度が関与する気相反応や、10-50原子程度が関与する有機反応へと応用してきた。本研究では、酵素反応を扱えるように拡張し、生体反応機構の解析および予測へと応用する。 一昨年度までに、反応中心を仮定したMicroiteration法と、AFIR法をユーザーが指定した原子団の間に適用していくグループ間AFIR法を組み合わせ、5368原子からなるイソペニシリンNシンターゼ(IPNS)の反応第一ステップを解析した。しかし、グループ間AFIR法は適用の仕方に任意性があり、ユーザーの手作業も多いため、より自動化された単成分AFIR(SC-AFIR)法を開発した。SC-AFIR法は、酵素反応に限らず様々な化学反応において効果的かつ非常に効率的な反応経路自動探索を行える。そこで、最終年度はSC-AFIR法の更なる開発と、IPNSや様々な化学反応への応用を進めた。一般に反応経路探索ではポテンシャル面の二次微分行列が必要となる。しかし、二次微分行列は原子数の多い酵素反応などの解析では計算負荷が非常に大きい。そこで、二次微分行列を一切計算しないアルゴリズムをSC-AFIR法に実装した。これにより、多数の原子が関与する反応への適用性を一層向上させた。IPNSへの応用では、初期構造の入力と反応中心の指定のみで反応経路自動探索を行えることを確認した。巨大系である酵素反応に対して反応経路自動探索を適用することは困難な課題であったが、反応中心が特定できる場合に有望な手法として、SC-AFIR法を確立できた。現在、同手法による酵素反応を含む様々な化学反応の機構解析を行っている。
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