研究課題/領域番号 |
23685008
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中村 達 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00333899)
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キーワード | 銅触媒 / 骨格転位 / 結合切断 / ヘテロ環 / 転位反応 / ロジウム触媒 / 水溶性配位子 / 不斉転写 |
研究概要 |
今回、2,3-転位-アザメタラサイクル形成の連続化によりヘテロ環を構築する新たな方法論を創成できると考えた。この構想のもと、シクロプロパンカルバルデヒド由来の基質のロジウム触媒反応を検討した結果、アゼピンオキシド誘導体が効率的に得られることを見出した。[RhCl(cod)]2および水溶性リン配位子 TPPMSの存在下、Z体基質を80℃で加熱撹拌した結果、アルキリデン基をもつアゼピンオキシド誘導体が良好な収率で得られた。アルキン末端の置換基はアリール基・アルキル基に適応可能である。一方、プロパルギル位の置換基効果は、アリール系置換基の場合その電子的性質に関わらず良好な収率で生成物を与えたのに対し、アルキルの場合反応性の低下が見られた。E体基質の反応は、DMF溶媒中、リン配位子の添加量を適切に調整することにより同一の生成物が良好な収率で得られる。一方、これまでに我々は芳香族アルデヒド由来のプロパルギルオキシムがど銅触媒により4員環ニトロンへ変換されることを報告している。この分子変換の反応機構を解明するためにキラル基質を用いた骨格転位反応を実施した。その結果、基質の不斉情報が生成物へ効率的に転写されることを明らかにした。特に基質のオキシム部位の立体化学に関わらず同一のエナンチオマーに変換された。この結果は、2,3-転位によって生じるN-アレニルニトロン中間体が、ニトロン部位が熱力学的に安定なZ体へ異性化した後に、同旋的4π電子環状反応が進行することを強く示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度ロジウム触媒が鍵転位反応を促進することを見出すことができたため、本方法論が生理活性物質合成において極めて重要なヘテロ環骨格を網羅的に合成することが可能であることを実証した。本研究の方法論が、学術的のみならず実践的な見地からも有効なアプローチであることが証明できた。上記報告には述べていないが、既に多機能性銅触媒を活用する極めて新規性の高い反応を本年度見出しており、これらの完成により、本研究が当該分野に大きなインパクトをもたらす成果をもたらすものと確信している。特に、従来多用されている金・白金触媒との比較において単なる「触媒価格」ではなく、反応性の本質において異なることを明らかにしつつあり、計算化学を含めてこの銅触媒の性質を正確に活用する反応系を開発することにより、次年度に大きく進展すると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度において、この研究の遂行により多置換ヘテロ環を代表とする有機合成への貢献できることを実証する。系中にdipolarophileを添加することにより連続的環化反応が進行するものと期待できる。このプロセスの合成的優位点は、窒素上置換基がエナミン構造を持つため容易に脱保護可能であることである。従来汎用されているニトロン化合物は窒素上にベンゼン環を持つものであり、その脱保護には過酷な反応条件を必要とした。N-allenyl nitroneを系中で触媒的に発生させる本方法論は合成上の有用性が高い。また予測生成物であるN-allenylamineは高反応性が期待できることから、さらなるタンデム反応の設計を検討する。本反応は2,3-転位によるニトロン中間体を経由すると考えられる。例えば、アレニルニトロン中間体をビニルアレンの窒素類縁体とみなし、ロジウム触媒によるメタラサイクル形成を鍵とする新規ヘテロ環構築反応へ展開する。特にオキシム部位に適当な環状置換基を持つ基質の開環反応により7~9員環の多様な中員環骨格の効率的合成法を確立する。これらの骨格は重要な生理活性物質の基本構造であるが、従来法は高希釈条件が必要な上に合成効率も低いことから、本研究で検討する方法論は革新的な構築手法になると期待できる。さらにこれらの知見を元に、π酸性触媒の多彩なσ結合切断経路(①直接開裂②ベータ脱離③電子逆供与に依る開裂④カルベン挿入)を生体構成元素間結合活性化に結びつける反応設計を行う
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