研究課題/領域番号 |
23685012
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
川崎 常臣 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40385513)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 不斉自己触媒反応 / 同位体不斉 / 不斉認識 / 不斉誘導 / クリプトキラリティー |
研究概要 |
アキラルなトリエステルであるTris(2-hydroxyethyl) 1,3,5-benzenetricarboxylateは、その結晶中で分子が左ないしは右向きらせん状に配列しているため、アキラルな化合物でありながらキラル結晶を形成する。トリエステルが形成するキラル結晶存在下で不斉自己触媒反応を行うと結晶の不斉、すなわち分子配列のらせん方向に相関した絶対配置を持つピリミジルアルカノールが高鏡像体過剰率で生成することを見出した。本結果は、アキラルなトリエステルの結晶中でのらせん状の配列に基づくキラリティーを認識した結果と言える。 辰砂は、硫化水銀(HgS)から形成されるキラルな赤色結晶であり天然から産出される。結晶中で硫黄および水銀原子はらせん状に結合しており、そのらせん方向の異なるPおよびM結晶が天然に存在する。キラル無機結晶である辰砂を用いて不斉自己触媒反応を行ったところ、硫化水銀が形成するらせん方向に相関した絶対配置のピリミジルアルカノールが生成することを明らかにした。不斉自己触媒反応が天然鉱物である辰砂のキラリティーを認識し、不斉増幅した結果と言える。 また、シトシンが形成するアキラルな一水和物結晶の一方のエナンチオトピック面を加熱ないしは減圧することによって、キラルなシトシン無水物結晶が形成することを見出した。同一方向からの脱水であっても、その脱水プロセス(加熱ないし減圧)によって生成する無水物結晶のキラリティーの方向が逆になるという極めて興味深い現象を明らかにした。さらに、不斉自己触媒反応は、シトシン無水物結晶のキラリティーを認識し、結晶水の除去によって生じた結晶不斉に相関した(S)-ないしは(R)-ピリミジルアルカノールを高鏡像体過剰率で与えることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
不斉自己触媒反応を用いることにより酸素および水素同位体置換キラル化合物の不斉認識を達成し、同位体不斉の識別に関する重要な知見を得ることができた。酸素同位体標識したグリセリンが示すキラリティーは、酸素同位体(酸素18、酸素16)の違いに基づく極めて微小なものであり、従来法ではそのキラリティーの検出は不可能とされていた。これまでの研究により、このような酸素同位体不斉の認識が不斉自己触媒反応を用いることにより可能であることを明らかにすることができた。さらには、アキラル化合物すなわち核酸塩基シトシンやアデニン、トリエステルが形成するアキラル結晶の表面不斉の認識に成功し、アキラル有機化合物が形成するキラル結晶の不斉認識に成功した。さらには、不斉結晶であるgamma-グリシンの絶対配置決定に旋光度測定を適用する手法を開拓した。また、天然鉱物である辰砂のキラリティーの認識にも、不斉自己触媒反応を用いる手法が適用可能であることを明らかにした。辰砂表面での不斉誘導機構解明を目指して不斉自己触媒や基質のピリミジンカルバルデヒドの吸着状態の観察を行った。
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今後の研究の推進方策 |
同位体不斉の認識に関して、窒素同位体置換キラル化合物の不斉認識を推進する。窒素15で標識することによるキラルジアミン誘導体を不斉合成し、不斉自己触媒反応の不斉源として用いる実験を行う。さらに、炭素同位体置換によるキラル炭化水素を用いた不斉自己触媒反応を行う。さらには、同位体不斉による不斉誘導機構の解明を目指して、単結晶X線構造解析、MASSスペクトルやNMR、振動円二色性スペクトルなどの装置を用いた解析を行い中間構造・遷移構造の推定を行う。また、アキラル化合物が形成するアキラル結晶の2次元配向を利用した不斉認識、すなわち不斉合成反応とりわけ炭素―炭素結合形成反応に取り組む。
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