研究課題/領域番号 |
23685014
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石渡 晋太郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00525355)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 高圧合成 / らせん磁性 / スカーミオン / トポロジカルホール効果 / 遍歴磁性体 / ペロブスカイト型酸化物 / 国際情報交換 |
研究概要 |
近年、磁気スカーミオンと呼ばれるトポロジカルに安定な渦状のらせんスピン構造体が、新しいスピントロニクス技術を生み出す舞台として注目されている。本研究で扱った立方晶ペロブスカイトSrFeO3 は、金属的伝導性とらせん磁性を併せもつ希有な酸化物として古くから知られていたが、その一方で単純ならせん磁性では説明できない物性も報告されており、新しいスカーミオン相の存在が期待される系だと言える。本研究では、育成が困難であったSrFeO3の大型単結晶の高圧合成を行い、磁化・抵抗・ホール抵抗測定及び中性子回折実験を行うことで、磁気基底状態の解明と新しいトポロジカルらせん磁性相の探索を目指した。その結果、SrFeO3は5種類のらせん磁性相をもっており、そのうち低温低磁場の2種類のらせん磁性相が、巨大トポロジカルホール効果を示すこと、またわずかなCo置換よってそれらが不安定化することを確認した。このわずかなCo置換を行った試料を用いて、磁場中における偏極及び非偏極中性子を用いた小角中性子散乱実験を行ったところ、低温低磁場相において2種類のスカーミオン格子が実現していることを強く示唆する結果を得ることができた。現在、これらが新奇なスカーミオン格子であることを裏付けるべく、偏極中性子回折実験の解析や、理論的な考察を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究ではまず、SrFe1-xCoxO3 の単結晶試料の高圧合成を行い、それらの磁気相図を作成した。x > 0.15 で系が強磁性的になることが既に報告されていたが、我々は特にx < 0.1 の領域に着目し、SrFeO3 で見いだされた5 種類のらせん磁性相がわずかなCo 置換によってどのような影響を受けるかを調べた。その結果、x = 0.01 では5 種類のらせん磁性相が確認されたものの、x = 0.02 では相の種類が3 つに、それ以上x を増加させると1 種類になること確認された。これは、SrFeO3 で実現した新奇なmulti-Q らせん磁気相が、わずかな磁性不純物によって不安定化し、シンプルなsingle-Q らせん磁性相になることを示唆している。さらに、新奇ならせん磁性相の磁気構造を詳しく調べるため、マックスプランク研究所Keimer グループの協力のもと、小角中性子散乱及び偏極中性子散乱実験を行った。試料はFe サイトの1 %をCo で置換したものを用いた。その結果、最低温において立方晶の4 つの等価な<111>方向に磁気伝搬ベクトルをもつmulti-Q らせん磁性相が実現していることが明らかとなった。これは、基底状態として3 次元スカーミオン格子が実現している可能性を強く示唆するものであり、世界初の観測例だと言える。また、共同研究者である関真一郎氏により、キラルな空間群をもつCu2OSeO3 が、B20 合金系で見られたものと同じ2 次元スカーミオン格子を発現することが見いだされた。この物質は、絶縁体としてスカーミオン磁気相を示す初めての系であり、また電気磁気効果を示す興味深い系である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、SrFeO3 の低温低磁場相が新奇な3次元スカーミオン格子相であることを裏付けるべく、偏極中性子回折実験の解析を進める。また、歪みゲージを用いて磁気転移に伴う格子変形を測定することにより、スカーミオン相を含む各磁気秩序相の対称性を調べる。これにより、中性子回折実験から示唆された磁気構造モデルの検証を行うことができると期待している。 次に、パルス強磁場中でSrFeO3のホール抵抗測定を行うことで、低温高磁場におけるらせん磁性相の解明を目指す。これにより特に20T 以上の高磁場領域で出現するらせん磁性相が、単一のQ ベクトルをもつコニカルらせん磁性なのか、複数のQベクトルをもつスカーミオン格子なのかといった情報を得ることができると期待される。これと平行して、SrサイトやFe サイトの元素置換を試みる。これにより、パルス強磁場下でしか出現しなかったらせん磁性相を、実験室系のマグネットで到達可能な低い磁場下で安定化させることができるようになると期待される。
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