研究課題
ニトロゲナーゼの反応中心であるFeMo-cofactorやCOデヒドロゲナーゼの反応中心であるC-クラスターは、二種類の遷移金属と硫黄を含み、FeMo-cofactorにはさらに軽原子X(最近ではX = Cと考えられている)が存在する。これらの構造を合成化学的に再現するためには、3or4種類の元素を含み望む三次元配列を可能にする合成手法の開発が必要とされる。昨年度の本研究では、代表者らが従来開発してきたFe/S二元素系クラスターの合成反応を基盤として、軽元素Oを加えたFe/S/O三元素系クラスターの合成反応を検討した。その結果、Fe/Sクラスターの合成反応系に酸素源としてH2Oを加える新しい反応から、かさ高いチオラート配位子を有する[6Fe-2S-4O]、[10Fe-4S-6O]、[9Fe-5S-2O]型クラスター、および[8Fe-6S-O]型クラスターの合成に成功した。特に[8Fe-6S-O]型クラスターは、その中心に酸素原子を持つ点でニトロゲナーゼの活性中心FeMo-cofactorに関連深い。また、中心の酸素が周囲にある6つの鉄を架橋保持しにくく、一部の鉄が中心酸素原子の代わりにクラスター外部にある芳香環と相互作用することも明らかになった。これらの結果からは、FeMo-cofactorが基質を捕捉する際に、中央部の鉄と中心原子の結合を一部切断して反応活性点を生じる可能性が示唆される。一方、酸素源としてO2を用い、アミドおよびチオラート配位子を持つ鉄錯体に加える反応からは、オキソ配位子とアミド配位子を含む二核~四核のFe/O/SRクラスターが生成することを見出した。生成するクラスターの金属数はチオラートのかさ高さに依存することも明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
従来の二元素系Fe/Sクラスターに限定されていた合成法を改良し、Fe/S/Oの三元素を三次元配列する新しい合成反応を開発することに成功した。これは、ニトロゲナーゼの反応中心FeMo-cofactorの人工構築に向けた重要な一歩であり、研究の進展は順調と評価できる。
軽元素Oを取り込んだFe/S/Oクラスターの合成法をさらに発展させ、軽元素としてOの代わりにCやNを含むFe/S/X (X = C, N)クラスターを合成する手法を開発するとともに、遷移金属元素としてFeだけでなくMoやVも含むMo/Fe/SやV/Fe/Sクラスターを合成する新規手法の開発、さらに軽元素の取り込み手法を組み合わせたMo/Fe/S/XやV/Fe/S/Xクラスターの合成手法開発へと展開する。軽元素CやNの取り込みには、ノルボルナジエン骨格の架橋位切断反応の利用を予定している。また、Mo/Fe/SやV/Fe/Sクラスターの新規合成手法としては、従来開発してきたFe/Sクラスター合成反応を基盤として、そこに多座配位子を持ち電荷のない(中性の)MoやVチオラート錯体を共存させる反応を予定している。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 5件)
Chem. Asian J.
巻: 7 ページ: 1231-1242
10.1002/asia.201101037
Inorg. Chem.
巻: 51 ページ: 4689-4693
10.1021/ic202669r
Org. Lett.
巻: 14 ページ: 2842-2845
10.1021/ol301089r
Organometallics
巻: 31 ページ: 4474-4479
10.1021/om300298q
巻: 7 ページ: 2222-2224
10.1002/asia.201200568
巻: 51 ページ: 11217-11219
10.1021/ic301348f
巻: 31 ページ: 8047-8050
10.1021/om300888q